眠っている着物を救いたい

季縁代表取締役 北川淑恵 2024.11.25

 着る機会は少ないが、捨てるには忍びない先祖から受け継いだ着物たち。ドレスやワンピースに仕立て直して、現代によみがえらせる。(聞き手=永野原梨香・ライター)

 着物をドレスなどにアップサイクルし、販売しています。着物のように打ち合わせで着るロングドレス(税込み11万5500円)など数種類のドレス、ひざ丈ほどのワンピース(税込み9万3800円)や羽織(税込み8万2800円)に仕立て直します。

 創業はコロナ禍の2020年3月。その頃と比べると、売上高は10倍ほどに成長しました。店舗は京都だけでしたが24年4月、東京・銀座にも店舗を構えました。

 人気商品は肩を出さないタイプのドレス。東京でパーティーの機会がある人などは、華やかな柄で肩を出すデザインをお求めになる方も多いですね。店頭では、ビンテージ(年代物)の着物をドレスに仕立て直した既製品も販売しています。在庫を持つリスクを考えて多くは置いていませんが、最近は1カ月前のものはもうないほど、回転が速いです。

 売り上げのボリュームは、オーダーメードが大きいです。まずは、たんすに眠っていた着物を持ち込んでいただき、希望のドレスの形を伺います。その後、着物の職人が着物をほどき、1本の反物に戻し、洋裁工場の職人がパターンに沿って裁断し縫製します。着物の素材を縫ってくれる職人を探すのは難しかったですね。売り上げのキャパシティーは生産のキャパシティーでもあるので、常に良い職人を探しています。

 事業のきっかけは、着物産業に携わっていた学生時代の先輩に窮状を聞いたことです。呉服屋の友人のビルの一室には、着物の在庫が積み上がってもいました。ドレスにするという発想は、母親に着物生地でドレスを作ってもらい、海外での催しに参加したことから生まれました。海外の方に大変好評で、よく声もかけてもらいました。着物をアップサイクルすれば、着物も職人も救うことができる。この事業に反対する職人はいませんでした。革新的な出来事を起こさない限り、着物文化も日本文化も衰退していくと、多くの京都の人たちは思っている。チャレンジには寛大です。

 一方で、京都は美意識が高い土地柄。例えば、着物の柄一つとっても、職人が思い望んでいただろう、柄の出方があります。京都で生きてきた中で培ってきた美意識に沿って、職人さんをリスペクトしたものにアップサイクルします。

シンガポール、中東などに注力

 創業前には中東で販売したこともあったのですが、コロナ禍で難しくなったので国内販売が中心となっていました。今はまた、シンガポール、中東など海外販売に注力しています。

 世代の高齢化に伴い、捨てられていく着物の市場は8兆円規模と見ています。お客様からも「ドレスにはできない紬(つむぎ)や無地、小紋などの着物をどうにかしたい」といった声が非常に多かったことから、普段使いの洋服に仕立てるサービス「キモノヌッテ─kimononutte─」も22年7月から始めています。

 着物をアップサイクルするために、久しぶりにたんすを開け、着物を通じて家族とコミュニケーションが生まれる。当社の事業が、日本文化を再認識するきかっけになれば本望です。

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企業概要

事業内容:ビンテージ着物ドレスの販売など

本社所在地:京都市中京区

設立:2020年3月

資本金:非公開

従業員数:非公開

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 ■人物略歴

きたがわ・よしえ

 1981年、京都出身。2003年3月、龍谷大学卒業後、2004年4月に半導体企画販促としてロームに入社。ポーセリンアートやべネチアングラスの技術指導のサロンを運営。独自の協会を立ち上げ、全国に数百人の生徒が登録。それと並行し、京都の職人や作り手のさまざまなサポート業務に携わる。2020年3月、季縁を創業。

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週刊エコノミスト2024年12月3日号掲載

北川淑恵 季縁代表取締役 眠っている着物を救いたい