よい本との巡り合いで旅を豊かに

旅に特化した本屋「街々書林」店主 小柳淳 2023.07.10

 大企業の元取締役が始めた「旅する本屋」。旅を楽しく、豊かにできる本をそろえたい。

(聞き手=平野純一・編集部)

 東京・吉祥寺のおしゃれな中道通りに、旅専門の書店「街々(まちまち)書林」をオープンしました。コンセプトは「旅する本屋」です。世界と日本の紀行、歴史、地理、語学などで読みごたえのある本を選び、約1400冊をそろえています。

 実際に旅をしている時は、ガイドブックを見ながら観光地を回るのに忙しいと思います。だから、ここにある本は、旅の前もしくは後にゆっくり読んで知識を深め、旅をより豊かにできるものをメインにしています。その他に、旅に必要な時刻表、語学テキスト、旅行を記録するのに適したノート、風景を描きたくなった時のためのスケッチブックや色鉛筆なども置いています。

香港に関する書籍が充実

 有名観光地を回り、おいしいものを食べて“映える”写真をSNSにアップして……という旅もいいですが、訪れた国や都市の成り立ちや地理的条件などを知れば、旅はもっと深みが増します。そのお手伝いができる本屋を目指します。広さは約60平方メートル。このうち奥の12平方メートルはギャラリーです。絵画展や写真展も開きたいと思っています。

 私自身、旅が大好きです。海外旅行は、大学の卒業旅行で初めてアメリカ西海岸に行って以降、これまでに122回、31の国・地域に行っています。このうち香港は、混沌(こんとん)としたなかでも都市はうまく回っている不思議な魅力にとりつかれ、78回も行っています。旅行作家として本も執筆しています。

ビジネスだから黒字にする

 昔、東京都港区南青山に「BOOK246」という旅に関する本を集めた小さな本屋がありました。立ち寄ると必ず良い本に巡り合え、私はそこが好きでした。しかし、10年ほど前に閉店してしまいました。非常にショックで、改めて旅に特化した本屋を探してみると、意外にないのです。ならば、いつか自分があんな本屋をやってみたいという思いがありました。

 ただ当時は会社員として働いていましたし、それは夢でしかありませんでしたが、この2~3年、実現させてみようと思い、書店経営を勉強してきました。実際に経営している人の話も聞きました。

 私は大学卒業後、小田急電鉄に入りました。取締役になり、関係会社の小田急トラベル社長、ホテル小田急サザンタワー社長も務め、経営の経験も積みました。旅と本好きが高じて書店を始めましたが、ビジネスとしてやる以上は黒字にしたいと思います。これは真剣に取り組みます。初期費用は、店の設計や工事、最初の本をそろえるのに1400万円ほどかかりました。4~5年内に単年度黒字にもっていこうと思っています。

 いま小さな書店がどんどんなくなっている時代です。ある人からは「よく開業しましたね」と言われました。でも新しく始めて頑張っている本屋もたくさんあります。私もこの書店の存在が認められて長く続けられるよう努力します。

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概要

事業内容:旅に関する書籍に特化した書店とギャラリーの経営

所在地:東京都武蔵野市

設立:2023年6月

個人事業として経営

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 ■人物略歴

こやなぎ・じゅん

 1958年東京都生まれ。81年東京都立大学卒業後、小田急電鉄入社。旅客営業部長、執行役員交通企画部長、小田急トラベル社長、小田急電鉄取締役、ホテル小田急サザンタワー社長などを歴任。2008年にはVisit Japan大使。64歳。

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週刊エコノミスト2023年7月18・25日合併号掲載

小柳淳 旅に特化した本屋「街々書林」店主 よい本との巡り合いで旅を豊かに