第三者が親にインタビュー
オヤシル代表取締役 武田勇 2026.01.26
親に聞きづらい大切な話について、第三者がインタビューして形に残す。そんなユニークな事業に取り組んでいる。(聞き手=位川一郎・編集部)
第三者が子の代わりに親のこれまでの人生とこれからの話を聞いて、テキストと映像にして残す「オヤシルインタビュー」という事業をやっています。当社が「家族で話したいこと・聞きたいこと」に関するインターネット調査をしたところ、子から親に聞きたいことの1位は「もしものとき(医療・介護・死後など)の意向」、2位は「やりたいこと・願い」で、親の未来について聞きたい傾向が分かりました。一方、厚生労働省の調査では、約7割の人が人生の最終段階の医療やケアについて家族で話せていません。
家族だからこその対話の壁があります。伝えるべき意思が親自身に育まれていない場合が多いうえ、フラットに話す・聞くというのが難しいのが家族。利害関係もあります。聞きたいけど聞けない話が、第三者の介在で伝わり合い形に残るなら、いい循環が生まれると思います。
親へのインタビューは2回行います。1回目は過去・現在編で、人生で起きた三つの大切な出来事、今の趣味などを尋ねます。2回目は未来・備え編で、これからやりたいことや、人生の最終段階の医療とケアについて聞きます。延命治療の意向など踏み込んだ質問もします。
インタビュアーは私を含め現在8人です。尋ねるべきことを尋ねる「訊(き)く」とともに、自分の解釈を入れず相手の心にマイクを傾ける「聴く」を大事にしています。創業から1年半で約60件のインタビューをしました。
後悔のない親子関係のために
利用者で多いのは、親の変化を感じるようなトラブルがあった方です。お父さんが脳出血を起こしたタイミングで申し込んだ40代の娘さんがいました。インタビューでお父さんは、50年間続けた飲食店の今後や子どもへの思いを話され、娘さんから「じっくり聴いてもらえた」と感謝されました。もう一つ、喜寿や米寿などのギフトとして使われる方も多いです。
利用後、親子関係が変化した事例もあります。60代のお父さんが経営する会社が倒産し、その後別居した30代の息子さんは、借金返済のため夜勤で働くお父さんの将来を気にして申し込まれました。お父さんはインタビューで十数年前の倒産時の葛藤を話し、「息子が自分のことを知りたいと機会をくれてうれしい」と涙を流されました。その後、息子さんが主導し、保険の見直しなど将来の備えを家族で進められました。
私は9歳で両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母親には幸せであってほしい、親に話を聞くのは難しいけど聞けなかったら後悔するだろう──と思ったことが、事業につながっています。「後悔のない親子関係」のためのパートナーでありたいと思っています。
オヤシルインタビューは、2030年に年間1000組に届けるのが目標です。また、インタビューの後で保険会社や介護福祉施設、税理士などにつなぐケースもあり、今後も連携を広げていきます。親御さんの本音を聞くためのノウハウを伝授する研修事業にも力を入れます。同世代の人が集まって終活について考える、スクール型アプローチもあるかなと思っています。

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企業概要
事業内容:「オヤシルインタビュー」の提供
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2024年5月
資本金:50万円
従業員数:4人
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■人物略歴
たけだ・いさむ
1992年埼玉県生まれ。横浜国立大学教育人間科学部卒。リクルートジョブズなどを経て、2024年に「オヤシル」を設立。25年10月、青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)の第20期オーディエンス賞を受賞。
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週刊エコノミスト2026年2月3日号掲載
武田勇 オヤシル代表取締役 第三者が親にインタビュー
