人をつなぎ地球と共存する出版を

セルン代表取締役社長/CEO  豊川竜也  2023.06.19

 必要な時に必要な分だけ作り、物流もできるプラットフォームで地球と出版の未来を創る。

(聞き手=北條一浩・編集部)

 出版不況といわれます。書店数の減少や雑誌の売り上げの落ち込みなどから判断した表現です。しかしそれは従来の出版に対しての見解であって、出版はむしろ今後大きな可能性を持った分野だと我々は確信しています。

 セルン(SeLn)という会社名は、「Sustainable engagement Liberal network」の略。出版に関わる人たちが継続的に、自由にやり取りできるインフラ、ネットワークを構築します、ということです。まず当社が提供したのが「BOOKSTORES.jp」というサービス。これはPOD(プリントオンデマンド)を使って、誰でも必要な部数だけ本が作れるだけでなく、販売をし、読みたい人に届けるまでがワンストップで可能になった在庫レス流通プラットフォームです。

プリントオンデマンドの制作現場(埼玉県所沢市の工場)

 PDFデータさえいただければ、1部からでもOK。出版は、制作者、販売、物流が分断されていて、加えて在庫をどうするかという問題を抱えていたわけですが、それらがこのサービスによって一挙に解消されることになります。

 なぜこんなことが可能になったのかというと、私が物流出身だからです。私の父は1965年に東京・小石川のアパートの一室で、ニューブックという書籍改装業を始めたのですが、幼い頃から再販制度で返品されてくる本を新たに再生させること、それを再び流通させる仕事を間近に見て育ちました。そして大学を出てすぐの20代前半、実際に現場に入って経験を重ね、今ではセルンとニューブック(業種としては出版物流倉庫)の代表取締役社長兼CEOも同時に務めています。

日本製品のシェアを上げたい

 日本の出版はこれまで、再販制度に支えられて成長してきました。これは強調しておきたいのですが、特に営業をしなくても本の入荷ができ、返品可というこの制度は画期的なものだったということです。私自身もこの再販制度の恩恵を受けて育ちました。ただ、再販制度にのっとった大量製本・大量頒布というやり方は、脱炭素社会の実現やSDGs(持続可能な開発目標)が求められる今の時代には合わなくなってきているのも事実です。そこで可能な限りコストをカットし、出版物の返品の削減を目指す転換が必要になってきました。

 当社が今後力を入れたいのは、日本文化をもっと世界に発信することです。ポケモンを知らない人は少ないし、「ドラえもん」に至っては世界のほとんどの国で放映されています。日本には優れた作品がたくさんあるのに、残念ながら世界のコンテンツ市場での日本のシェアは2017年をピークに年々下がっています。これは日本が代理店を通したライセンス契約しかできていないことが大きな要因だと思います。

 そこで我々は海外の印刷パートナーとデータを共有し、現地での印刷・製本・発送を行いました。

 未来を担う子供たちと地球環境のために、無駄のない、そして一つひとつの製品を大切に取り扱うロジスティクスの構築に、これからも全力を注いでいきます。

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企業概要

事業内容:デジタルプリント・オンデマンド・サプライチェーンプラットフォームの企画・開発・運用と、連携するプロダクト、サービスの開発・販売・運用

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2018年11月

資本金:1000万円

従業員数:10人

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 ■人物略歴

とよかわ・たつや

 1974年宮城県生まれ、東京育ち。立教大学卒業後、父が経営するニューブックで出版流通を学び、2013年に物流業務をアウトソーシングできるオープンロジを創業。18年、ニューブックから事業分離して2社目のセルンを創業。

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週刊エコノミスト2023年6月27日・7月4日合併号掲載

豊川竜也 セルン代表取締役社長/CEO 人をつなぎ地球と共存する出版を