「水」を燃料にした小型衛星エンジンが宇宙の輸送インフラとなる日

Pale Blue社長 浅川純 2022.01.31

浅川純 Pale Blue代表取締役社長 水が燃料の衛星エンジン開発

「水」を使った画期的なエンジンを備えた小型衛星が地球を周回する日が近づいている。

(聞き手=中園敦二・編集部)

 小型衛星が宇宙空間で移動するための「推進機」つまり「エンジン」の開発・製造を手掛ける東京大学発のスタートアップ企業です。画期的な点は、エンジンの“燃料”に「水」を使うことです。(挑戦者2022)

 小型衛星は通常、四方が約1メートル以下、重さ200キロ以下で比較的安価という特徴があり、複数の小型衛星が相乗りして打ち上げられます。大型衛星1機よりも多くの小型衛星があれば、リアルタイムで地球全体の状況が分かります。地球観測やIoT(モノのインターネット)通信で使われます。

 大型衛星は高圧ガスや人体に有毒な液体を燃料として移動できますが、これらは小型化して取り扱うのが難しいのです。このため、従来の小型衛星のほとんどが推進機を付けておらず、活動範囲は限られて最終的に放置され「宇宙ゴミ」になっていました。

 水を推進力に使う考えは1970年ごろからあり、地上から宇宙空間への打ち上げロケットで研究されていました。2000年以降に、人工衛星のエンジン“燃料”に使えないかと模索が始まりました。

地上で作動実験した水プラズマ式エンジン Pale Blue提供
地上で作動実験した水プラズマ式エンジン Pale Blue提供

 小型衛星の推進方式は、(1)大きな力を出せる「水蒸気」、(2)水蒸気よりパワーは小さいけれど燃費がいい「水プラズマ」(イオンと電子に分離した水の状態)、(3)両方を備えて速く動くハイブリッド型──の三つです。世界で数社が水蒸気方式を開発していますが、(2)(3)は当社だけです。基本となるプラズマ生成技術は東大が10年以上かけて研究した末、2014年までに確立しました。翌年、プラズマ生成技術を水に適用し、地上での作動実験に初めて成功しました。

 当初、水は酸素原子が入っているのでプラズマ化すると、機器のさびや腐食につながるなど非常に難しかったのです。当社はプラズマ生成に必要なマイクロ波電源や、プラズマ加速に必要な高電圧電源の小型化・高効率化の技術を開発しました。小型衛星が自由に動けるようになれば、高度や緯度を変えていろいろなミッションを実行できます。衛星は、水400ミリリットルで1年以上、動けます。寿命が尽きたら大気圏に向かうようにすればすべて燃え、宇宙ゴミにもなりません。

5年後に100機狙う

 僕は推進機理論の研究で、水プラズマが発生する物理現象を細かく解明していました。ただ、実際に使うとなると、水プラズマエンジンのシステム全体の技術的完成度・安定性・信頼性を高めることが重要になります。しかし、科学的視点からは面白みがなく、論文を出せないのです。画期的技術が社会で使われる道のりは遠いと思い、起業しました。

 今年はこのエンジンを搭載した小型衛星が4機以上打ち上げられる予定です。今年3月に量産に向けた防じん施設も完成します。従来の大型衛星のエンジンは10億円程度ですが、小型衛星なら数百万円です。5年後には年100機規模を提供したいですね。

 宇宙空間が産業化した時、輸送インフラが必要になります。将来的には小型衛星に水を補給する給水衛星を作りたい。水は月や火星にもあるといわれています。行く先々で補水して「旅」もできます。この「ワクワク」こそ当社の推進力です。


企業概要

事業内容:人工衛星用の推進機の開発・製造

本社所在地:千葉県柏市

設立:2020年4月

資本金:1億円

従業員数:19人


 ■人物略歴

あさかわ・じゅん

 1991年高知県生まれ。2010年土佐高校卒、14年東京大工学部卒業。19年東京大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程(工学)修了し、東京大大学院新領域創成科学研究科特任助教。20年にPale Blue(ペールブルー)を創業し、代表取締役社長に就任。30歳。