コメの力を引き出し世界中に伝える

亀田製菓 ジュネジャ・レカ・ラジュ 2025.02.17

コメの力を引き出し世界中に伝える

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

 

── 会長CEO(最高経営責任者)に就いて約2年半が経過しました。

ジュネジャ 私が言ってきたことは非常にシンプルで、「人」「イノベーション」「収益」です。まずは、人を大切にする。第1ステークホルダー(利害関係者)は社員です。時代に合った商品やビジネスモデルを作ることも重要です。そして、収益を上げること。利益を生まない会社は持続可能ではありません。社員にもステークホルダーにも還元できず、社会にも貢献できません。

 社員は真面目ですが、指示待ちのところがありました。これに対し、私は「夢と笑いの現場を作りたい」と言ってきました。社員は自律的に自ら考える。そして、それぞれに夢があって、笑顔になるのです。社員は少しずつ変わってきています。また、「諦める文化」から「挑戦する文化」、そして「挑戦を楽しくする文化」へと変わってきたと感じます。その結果、業績も良くなりました。

── 今年度から3カ年の中期経営計画では「ライスイノベーションカンパニー」を目指すことを打ち出しています。
ジュネジャ 「コメの力を引き出し、世界中に伝えていく」。これを当社では「ライスイノベーション」と呼んでいます。

 コメは無限の可能性を持っています。世界的に小麦アレルギーの子供が増えていますが、コメは(小麦アレルギーの原因物質を排除した)「グルテンフリー」です。当社グループでは、米粉だけで作った米粉パンや、お湯を注げば食べられる保存食のおにぎりなどを作っています。亀田製菓は「柿の種」だけでなく、とんでもない「種(シーズ)」を持っています(笑)。コメ中心に培った70年近い技術があります。食感やおいしさ、感動を生み出すクラフトマンシップ(職人芸)というべき技術やノウハウを持っています。

米菓を「選択と集中」

── 主力の国内米菓事業では定番ブランドへの選択と集中を進める戦略です。
ジュネジャ 当社の「亀田の柿の種」を国内で知らない人はいません。私も大ファンで、入社するきっかけにもなりました。「ハッピーターン」や「亀田のつまみ種」などもロングセラー商品です。

 一方で、当社には約50のブランドがあり、商品数(SKU)は約300に上ります。さらに新商品や新ブランドを出し、育てていきますが、全てのブランドに力を入れることはできません。「独自価値創造型」企業を目指して、選択と集中を進め、量から質へと転換していきます。

── 海外事業では2026年度に売上高180億円を目指していますね。
ジュネジャ 日本では人口が減少しており、国内だけでは限界があります。海外に思いっきり出て行かないといけませんが、次々と工場を作るリソースはない。新しいパートナーを見つけ、私たちの日本の技術をうまく使って、やっていくことが鍵を握っています。タイでは大手ビール会社と、インドでは大手食品メーカーと組むなど、成功例ができています。

 課題はいつも出てきます。例えば、ウクライナ戦争の影響や人件費の高騰などを背景に米国事業は大変苦労しました。(2期連続の減損損失を出した子会社の)メアリーズゴーンクラッカーズ社がウクライナから買っていたオーガニック原料の価格は急騰しました。為替やエネルギー価格の問題など、読み切れないリスクはあります。ですが、目標に向かって社員がやろうと思えば、乗り越えることは不可能ではありません。

── 食品事業では、長期保存食の販売が伸びているそうですね。
ジュネジャ 地震、津波などの災害はいつ起こるか分かりません。被災して、電気も使えないような状況でも、やはりおいしいご飯を食べたいと思うはずです。そのときに私たちが何を提供できるかです。当社グループの尾西食品は、製造から5年間保存できる携帯おにぎりなどを作っています。順調に売り上げ、利益を伸ばしており、今、宮城県に新工場を建設しています。工場にはヘリポートを設ける方針で、何かあった時には、これを使って商品を提供できます。商品は災害時以外にも登山者の行動食などに使われています。

── 同事業では、先ほどの米粉パンも注目されていますね。
ジュネジャ 丸パンやベーグルなど、さまざまな種類を作っています。モチモチ感があり、おいしい商品です。アレルギーを抱える人に、おいしさと感動を与えるものを作るというのは、まさにライスイノベーションです。このほかに食品事業では、大豆ミートをはじめとするプラントベースフードなどを製造しています。「人生100年時代」において、何が健康に対して役立つかを考え、社会課題を解決することは持続可能なビジネスだと思っています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは

A 太陽化学の研究者時代に参加したカナダの学会でスキーに誘われました。あまりスキー経験はなかったのですが、高い山に連れて行かれ、下を見たときに、このまま死ぬと思いました。少しずつ進み、約3時間半かけて降りることができました。

Q 「好きな本」は

A 『The Book of ICHIGO ICHIE(一期一会)』です。この一瞬を大事にしようということが書いてあります。自分の人生を重ねながら読みました。

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングをしています。NHKの大河ドラマは好きで30年以上見ています。

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事業内容:米菓、長期保存食、植物性乳酸菌、米粉パン、プラントベースフードなどの菓子・食品の製造販売

本社所在地:新潟市

設立:1957年8月

資本金:19億4600万円

従業員数:4040人(2024年3月末、連結)

業績(24年3月期、連結)

 売上高:955億円

 営業利益:44億円

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Lekh Raj Juneja
 1952年インド・ハリヤナ州出身。1984年に来日。89年名古屋大学大学院博士課程修了、太陽化学入社。2003年副社長。14年ロート製薬副社長兼チーフヘルスオフィサー。20年に亀田製菓副社長に就任。22年6月から現職。

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週刊エコノミスト2025年2月25日・3月4日合併号掲載

編集長インタビュー ジュネジャ・レカ・ラジュ 亀田製菓会長CEO