好調な九州経済を支え、好循環を作る

ふくおかフィナンシャルグループ 五島久 2023.06.12

好調な九州経済を支え、好循環を作る

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── ふくおかフィナンシャルグループ(FG)は福岡銀行(福岡市)、熊本銀行(熊本市)、十八親和銀行(長崎市)とスマートフォン専業のみんなの銀行(福岡市)を傘下とする銀行持ち株会社です。九州経済は今、活況のようですね。

五島 半導体受託生産(ファウンドリー)の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出や、昨年9月の西九州新幹線開業の効果、それからインバウンド(訪日外国人観光客)の増加などで、消費や設備投資など景況感は目に見えて改善しています。

 TSMC関連の資金需要では、倉庫や工場、機械・設備向けが旺盛です。また、働く人もかなり流入しており、住宅向けの資金需要もあります。九州への外国人入国者数は今年3月で22万2000人と、新型コロナウイルス禍前の2019年3月(39万9000人)には届いていませんが、中国人観光客が今後増えてくれば超えることになるでしょう。

── コロナ禍や物価上昇の影響は?

五島 コロナ禍で控えられていた消費などが、昨年末ごろから動き始めました。住宅投資も活発で、不動産価格が値上がりしていても売れています。物価上昇に対しては、企業は相応に価格転嫁できており、それが賃上げにもつながっています。九州の景気はしばらく好調に推移すると考えています。

── 一方、米国ではインフレが進行し、急激な金利上昇を受けた保有債券の損失や預金流出によって、破綻する地方銀行が出ました。

五島 日本では小口の預金が多くを占め、預金保険制度もあるため、スタートアップ企業の大口預金が一気に流出した米国の銀行のようなことが起きる蓋然(がいぜん)性は低いと考えています。ただ、米国のようにSNS(交流サイト)を通じて風評が流れたりすることのないよう、健全経営の維持は非常に重要だと考えています。

── ふくおかFGは23年3月期連結で保有債券の売却などにより403億円の損失を計上し、純利益は311億円と前期比42・4%の減益となりました。

五島 損失は主に米ドル建ての債券です。ドルの調達コストがどんどん上がり、金利高も長引けば損失がさらに大きくなるため、どこかで止める必要がありました。昨年に米国の金利が上がったタイミングで、保有していた低利回りの債券を売り、高利回りの債券に入れ替えたため、現在の収益構造は改善しています。

地銀最大グループ

── 福岡県地盤の第二地銀、福岡中央銀行(福岡市)と昨年11月、経営統合することで基本合意し、今年10月に統合予定です。

五島 福岡中央銀行は現在、健全経営をしていますが、5年後、10年後の地域経済の安定を見据えた時に、一緒にやっていった方がいいと判断しました。福岡中央銀行の主な取引先である中小のお客さまに、しっかりと金融を提供していくことが大事です。また、福岡中央銀行が持つ取引先のニーズや情報は、我々にとっても有益です。

── 19年4月の十八銀行(現・十八親和銀行)との経営統合は、同一県内の地銀再編の先駆けとなりました。

五島 旧・親和銀行と一つになって融合したことで、地域を向いた地銀本来の営業ができるようになりました。取引先に不利益がないようモニタリングもしています。統廃合した店舗の活用例として、長崎大学病院前の支店跡地を改装し、難病を治療する子どもや家族の宿泊施設としました。今年5月にオープンし、無償で運営団体に賃貸しています。こうした取り組みにより、新銀行は地元の銀行として認知されるようになりました。

── 21年5月に営業開始したみんなの銀行の状況は?

五島 口座数は今年3月末で60万口座となりました。預金者の属性は10~30代が70%、地域別では関東・関西が52%を占め、ローン残高も47億円と着実に伸びています。若い人たちを中心に、スマホで何でもできた方が便利と考える人が増えており、取引基盤を広げて我々の成長につなげたいと考えています。

 ただ、当初の目標とした数字には届いていません。今後はみんなの銀行の機能やサービスを他社へ提供することにしっかり取り組み、収益性を引き上げていきます。みんなの銀行の黒字化の目標は、当初は25年度だったのを27年度に見直すことにしました。

── 連結総資産約30兆円と地銀最大グループです。昨年4月の社長就任から1年がたち、手応えや課題をどう感じていますか。

五島 23年3月期決算は、債券の損失計上を除けばほぼ中期経営計画(22〜24年度)通りで、手応えを感じています。就任時から言い続けている(1)「お客さま本位」の徹底、(2)「人と組織の活力」を引き出す、(3)「収益」を上げ続ける──を浸透させ、好循環を生み出していきたいですね。

(構成=桐山友一・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 人事部で人事制度の構築などに取り組みました。退職給付債務の会計上の処理が変わった時は、会計が経営に与える影響の大きさを知り、この経験が今に生きています。

Q 「好きな本」は

A 城山三郎の『少しだけ、無理をして生きる』です。少しの無理の積み重ねが、やがて大きな実りをもたらしたという渋沢栄一たちの生き方に魅力を感じます。

Q 休日の過ごし方

A 土曜日はゴルフやスポーツクラブなどで体を動かしてリラックスし、日曜日は一人で考える時間に充てています。

====================

事業内容:銀行持ち株会社

本社所在地:福岡市

設立:2007年4月

資本金:1247億円

従業員数:7546人(23年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 経常収益:3313億円

 経常利益:500億円

====================

 ■人物略歴

ごとう・ひさし

 1962年生まれ、鹿児島県出身。県立大口高校卒業、九州大学法学部卒業後、85年福岡銀行入行。取締役常務執行役員、取締役専務執行役員、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)取締役執行役員を経て、2022年4月から現職、福岡銀行代表取締役頭取。61歳。

====================

週刊エコノミスト2023年6月20日号掲載

編集長インタビュー 五島久 ふくおかフィナンシャルグループ社長