「ほんまもん」で市場つかむ

堀場製作所グループ 堀場厚 2025.10.06

Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

「ほんまもん」で市場つかむ

── 分析・計測機器にこだわり、自動車の排ガス測定装置から、半導体製造向け制御機器へと事業領域を広げてきました。

堀場 2024年度は売上高が3000億円を超え、25年度もそれを上回る動きです。トランプ政権の自動車関税も15%に落ち着き、何とか対応できるでしょう。現在は半導体事業が非常に好調です。来春には京都府福知山市に主力製品のマスフローコントローラー(半導体製造プロセスで使われる制御機器)などを生産する新工場が稼働します。生成AI(人工知能)を含めて半導体需要は必ず伸びます。

 とはいえ、当社の半導体事業は長らく苦境の時代が続きました。それでも開発投資を継続し、ここに来て競争力が一気についてきた。こうなると最初から分かっていたら良かったですが、もちろんそうではない。こればかりは、数を打たないといけないですね。

── 80年前の創業時は学生ベンチャーでした。根っこにある強みとは。

堀場 創業者・堀場雅夫が作った社是「おもしろおかしく」でしょう。他に先んじて技術開発するという強みを維持するには、創造性やオリジナリティーが必要です。そのときに「おもしろおかしく」のスピリットが大事になる。趣味のように仕事をすれば疲れないし、新しい発想も湧く。社員が自分の個性を生かし、やりたいことをきっちりやる。そしてそれに誇りを持つことがオーナーシップ(当事者意識)につながる。これからも大切にしていきます。

── 技術にこだわり過ぎ、沈んだ日本企業もあります。

堀場 先代の頃は技術研究に集中していましたが、私が社長になってからは製造も大事、品質管理も大事、販売もサービスも財務も総務も広報も「すべて大事」と切り替えました。会社の中で一番弱い部分がその会社の「実力」です。そう考えるようになって会社が伸び始めました。

 例えば、当社はかつて日立グループと提携して販売を委託していましたが、「営業も大事」と考え、自前の販売網を展開することにしました。良いお客様を見つけ、そのお客様と一緒に次の展開を考える。つまり単なるサプライヤーではなくパートナーになっていく。さらに独立系メーカーとなりましたから、それぞれのお客様にフェアに対応でき、相談先や発注先として安心してもらえる。こういうポジションをグローバルにキープしていきたいと考えています。

京都との関係大切に

── 28年度に売上高4500億円を目指しています。

堀場 「売り上げは後からついてくる」と考え、技術開発に注力して製品を大切に売っていくスタイルでしたが、近年は少し考え方を変えました。同じ技術でも、製造プロセスや品質管理の領域に応用していけば、一挙に売上高は何十倍にもなると確信しました。

 社内では「豆腐屋になろう」と言っています。豆腐は1丁、2丁。漢字は違いますが、1兆、2兆と数えられる会社になろうと。京豆腐は半丁から買えますから、まずは半兆、5000億円を目指します。自動車、半導体と来て、次はバイオ・ヘルスケア、水素・アンモニアなど、我々が比較的得意とする領域に力を入れていけば目標に到達できると思います。

── 不確実性の高い事業に長期投資できるのは、なぜですか。

堀場 財務的な強さは当然必要ですが、「すべては人次第」ですから当社では人材を「人財」と呼びます。5年、10年という時間をかけて育成しないと競争力がついてこないからです。

 祖父は京都帝国大(現京都大学)理学部の教授。父も核物理学者でした。そうした学究肌の気質、基礎にしっかり取り組むという価値観はファミリーを含め会社に流れています。本社を京都から移さないのも京都のアカデミアと関係を維持したいからでもあります。

── どの技術が将来の「あたり」なのか分かりますか。

堀場 予測は難しい。自動車排ガス測定装置も、もとは医学向けに開発した技術がピタッとはまった製品です。大事なのは、技術が「ほんまもん」であること。技術を極めれば、それにフィットするマーケットが出てくる。社内には今も鳴かず飛ばずの製品、技術がたくさんありますが、ある日、日の目を見ることもあるだろうと。投資ファンドなどから内部留保の水準について、さまざま言われることもあります。しかし、うちは一般論の製品でヒットしたら良いという会社ではありませんから、開発投資を継続していきます。

── 経営者は孤独な仕事です。

堀場 最後は自分で決めないといけない。経営者が判断を求められるのは「51対49」で意見が分かれた時。そういう状況でも決めなければならないし、自分が逃げたら会社の動きが停滞し、モラールも低下する。やるべきことを今やる。これが大事です。

横顔

Q ピンチだったこと

A 働き始めた頃、改めて勉強しようと米国のカリフォルニア大学アーバイン校に編入した時、学習量が膨大で絶対についていけないと。自分は十分ではない、もっと磨かないとあかん。良い意味での劣等感がエネルギーを生む。その大切さを学びました。

Q 最近買ったもの

A トヨタのランドクルーザーです。運転が本当に好きなんです。

Q 時間があればしたいこと

A 琵琶湖でヨットに乗ります。メーカーによって操縦性が全く違う。ノウハウやセンスの蓄積を感じます。

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事業内容:自動車用、環境用、医用、半導体用など計測機器の製造販売

本社所在地:京都市

設立:1953年

資本金:120億円

従業員数:8955人(2024年12月31日現在)

業績:(24年12月期)

 売上高:3173億円

 営業利益:483億円

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 ■人物略歴

ほりば・あつし

 1948年、京都府出身。京都府立山城高校卒業。71年3月に甲南大学理学部卒業後、渡米しオルソン・ホリバ社に入社。77年6月にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科修了後、堀場製作所海外技術部長。92年に社長就任。2018年から現職。77歳。

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週刊エコノミスト2025年10月14・21日合併号掲載

編集長インタビュー 堀場厚 堀場製作所会長兼グループCEO