リモート点検導入で「独立系」首位
ジャパンエレベーターサービスホールディングス 石田克史 2024.09.09リモート点検導入で「独立系」首位
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 創業(1994年10月)からまもなく30年です。エレベーターやエスカレーターの保守契約台数は現在、10万台を超えました。
石田 28歳の時、たった1人で起業しました。もともとはエレベーターメンテナンスの技術者です。資金も信用もなく、スーツ姿でエレベーターがあるビルのオーナーに飛び込み営業したり、車の中で作業服に着替えてメンテナンス作業に当たったりしました。トラブルに備えて24時間、電話応対するため会社で寝泊まりすることもありました。若くて勢いだけで起業したようなものでしたが、顧客がだんだん増え、それにつれて従業員も増えました。
── 24年3月期決算は売上高、営業利益とも過去最高です。
石田 エレベーターは現代の都市生活に欠かせない重要インフラで、安全性を確保するため年1回の「法定検査」が義務づけられています。こうしたメンテナンス業界は、大手メーカーの子会社による「メーカー系」と、メンテナンスを専門とする「独立系」の二つに分かれます。メーカー系はエレベーターの開発費がメンテナンス費に上乗せされるのに対し、独立系はそれがない分、コストを20~50%抑えることができます。その一方で、「安かろう、悪かろう」ではなく、メーカー系に負けないサービスを提供した結果が業績につながったと考えています。
── 技術的な強みは?
石田 独立系としては唯一、エレベーターの運転状況などを24時間、遠隔で把握できるサービス「PRIME(プライム)」を2007年に導入しました。故障の予兆をいち早く察知できるため、トラブル発生前の段階で対応が可能になります。点検時の停止時間を短縮できるメリットもあり、他社との差別化につながっています。導入当時は売り上げが今より少ない時期にもかかわらず、多額のコストをかけて取り入れました。リモートサービスの導入が経営上の分岐点になりました。
── 17年に独立系として初めて上場しました。
石田 上場のきっかけは、シンドラーエレベータ社製エレベーターによる死亡事故(06年)です。エレベーターの安全性が問われましたが、顧客の不安を払拭(ふっしょく)するために私たちができることは安全安心を徹底することです。上場でさらに信頼性を高めることができるのではないかと考えて人材育成や技術力の強化を図り、11年かけてようやく上場にこぎつけました。契約台数は上場以降、順調に増え、人材も採用しやすくなりました。
── 初めての中期経営計画を22年にまとめました。
石田 27年3月期までに保守契約台数を15万台超に伸ばし、売上高としては600億円以上に成長させることを目指しています。さらに、収益性を高めるため、メンテナンスとともにエレベーターのリニューアル事業を拡大していく必要があると考えています。配当性向を40%以上に拡大するなど株主還元にも努めます。時価総額としては現在約2500億円ですが、将来的には1兆円規模まで増やすことを目標にしています。規模を拡大し、従業員の待遇が一番いい会社にしたいと考えています。
── 独立系が拡大する余地は?
石田 国内で稼働するエレベーター・エスカレーター約110万台のうち、約8割はそれを設置したメーカー系がメンテナンスを担っています。独立系は2割にとどまりますが、海外をみると独立系のシェアは5割に達しています。将来的にはそこまで拡大したいと考えています。中期経営計画では、M&A(企業の合併・買収)による規模拡大についても取り組む方針を示しました。すでに19年以降、18件のM&Aに取り組んでいます(24年2月現在)。業界は高齢化や後継者不足を抱えています。M&Aの依頼があれば、引き続き真摯(しんし)に対応します。
東南アジアに展開
── 海外展開の方針は?
石田 14年に香港に現地法人を設立して以降、インド、インドネシア、ベトナム、マレーシアの各国に拠点を構えています。特にインドネシア、ベトナムへは日本から技術者を派遣し、メンテナンス技術の向上に取り組んだ結果、エレベーターの管理台数の増加につながっています。ASEAN(東南アジア諸国連合)に関しては積極的な投資を続けたいと考えています。日本で展開している高品質のメンテナンス技術を世界標準にすることが目標です。
── 起業を目指す人へのアドバイスは。
石田 「勢い」が大事です。そして経営は大胆に、繊細にやることが大切です。昔は自分で借金して、うまくいけば大金持ち、失敗すれば倒産して路頭に迷うという覚悟がありました。今は「失敗したら新しい投資先を見つければいい」という感覚かもしれませんが、覚悟を持って起業に臨んでほしいと思います。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 売り上げを伸ばそうと必死でした。今の余裕が当時にあれば、もっと会社を伸ばせたとも思います。逆にいえば若いからこそできたとも思います。
Q 「好きな本」は
A ドラッカーの本です。田中角栄元首相の本も子どもの時からよく読みました。人の気持ちをどうくむのか、ということを教えてくれました。
Q 休日の過ごし方
A 釣りです。釣りをしている時に仕事のアイデアが浮かびます。
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事業内容:エレベーターなどの保守・保全、リニューアル業務
本社所在地:東京都中央区
設立:1994年10月
資本金:24億円
従業員数:1868人(2024年3月末、連結)
業績(24年3月期、連結)
売上高:422億円
営業利益:68億円
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■人物略歴
いしだ・かつし
1966年生まれ。東京都出身。84年私立春日部共栄高校(埼玉県)卒。エス・イー・シーエレベーターなどを経て、94年ジャパンエレベーターサービスを創業、社長に就任。2017年東証マザーズに上場し、会長兼社長CEO(最高経営責任者)に就任。18年東証1部に市場変更(22年からは東証プライム市場)。58歳。
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週刊エコノミスト2024年9月17日号掲載
編集長インタビュー 石田克史 ジャパンエレベーターサービスホールディングス会長兼社長