パレスブランドを内外に展開する

パレスホテル 吉原大介 2023.08.07

パレスブランドを内外に展開する

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── 新型コロナウイルス禍から収益がⅤ字回復しているようです。

吉原 2020年1月に新型コロナが話題になり、2月以降宿泊客が減っていき、コロナ禍が始まるタイミングの3月30日に私は社長に就任しました。都内で人出がなくなった状況で、「さあ、どうしようか」という不安からのスタートでした。この3年間を振り返ると最初がそういうスタートで良い経験ができたと思っています。

── コロナ禍ではどんな対策を講じましたか。

吉原 20年4月上旬に緊急事態宣言が出たタイミングで、約2カ月間、ホテルの営業をやめました。その間、部長以上がホテルに泊まり込んで、緊急事態が明けた時に何をすべきか、外国人宿泊客が当分戻ってこない前提で売り上げの柱をいかに作っていくかを議論し、いろいろな施策を打ちました。具体的には、外販を強化したり、オンラインサイトの商品数を増やしたり、会員組織を作ったり、ホテル以外の事業を強化しました。

 その後、21年秋に個人消費が戻り、22年10月に入国制限が緩和されて外国人宿泊客が戻ってきて、急激に業績が回復してきています。もともと外国人宿泊客の比率は7割でしたが、同じ水準に戻りつつあります。稼働率はまだ戻りませんが、23年12月期は前年度以上の売り上げを見込んでいます。私自身はコロナ禍の3年間を耐えて、ようやくスタート地点に来たという思いがあります。

── 現在のホテル事業の展開は。

吉原 12年にフラッグシップとなる「パレスホテル東京」を開業しました。この10年間はブランドを高めていくことに注力しました。日々、最前線でお客様にサービスを提供しているスタッフのお陰で、米フォーブス・トラベルガイドの五つ星の評価を16年から継続して獲得しています。パレスホテルのブランドが外資系ホテルに負けない評価を得たことで、これからの10年はこのブランドを使って、国内外に展開していきたい。その第1弾が台北で、28年に「アンバサダーパレスホテル台北」を開業します。当社としては初めてのマネジメントコントラクト(管理運営受託方式)による海外進出で、オーナー様のホテルと当社のダブルネームで新しいブランドとなります。オーナー様がパレスホテル東京に宿泊し、サービスを気に入っていただいたことが、今回の話につながりました。パレスブランドはパレスホテル東京と同等のクオリティーを求めていくので、今後の展開では立地にもこだわっていきたい。

 また、新たに宿泊主体型のブランド「ゼンティス」を立ち上げ、20年7月大阪に「ゼンティス大阪」を開業しました。ゼンティスはまずは国内の主要都市に展開していきたい。

── 東京ではラグジュアリーブランドのホテルが増えていますが、競争が厳しくなるのでは。

吉原 良いホテルが入ってくることは、そのエリアの価値が高まるので、われわれは歓迎しますし、競合するつもりもないです。ロンドンやパリなど世界の各都市には、その都市ならではの個性的な独立系ホテルがあります。そうしたホテルに共通するのは、何年たっても価値が色あせない“タイムレス”なホテルであること。そういうホテルをわれわれは目指しており、自分たちのホテルをしっかり良くしようと思っています。

優秀な人材を確保

── ホテル以外の事業は。

吉原 コロナ禍で特に外販事業に力を入れて、売り上げを伸ばしました。当初はオンラインサイトの売り上げが少なかったので、認知拡大のために百貨店などの催事に出店して、パレスホテルの焼き菓子などを販売しました。21年は年間300日出店しました。そこで知っていただいたお客様にオンラインサイトにアクセスしてもらう戦略をとりました。

 22年3月には伊勢丹新宿店に常設店として「パレスホテル東京スイーツブティック」を出店しましたが、こうしたタッチポイントを外に作っていきます。外販事業は一つの柱にしていきたいと思っていて、コロナ前の3倍の売り上げを目指しています。秋には新たな取り組みを発表する予定です。

── 人材の採用に関して、初任給を1割以上引き上げました。

吉原 今後10年の事業展開を見越して、今のうちに人材を育てていきたいので、今年も108人の新入社員を採用しました。そして優秀な人材に来てもらうための待遇を提供しなければいけないので、初任給を上げました。また、物価が上がっているので、社員の生活を守るためにも臨時のベースアップも実施しました。

 ホテルは人に支えられている事業ですので、スタッフが笑顔でなければ、お客様に笑顔を提供できないですし、満足のいくサービスは提供できません。人を大事にするための環境を用意することは私の役割だと思っています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A マーケティング担当として、パレスホテル東京の立ち上げに関わりました。信念を持ってサービスを提供して、利用者が増えていった時はうれしかったです。その後、ニューヨークに行って、ホテルのホスピタリティーの大学院で勉強しましたが、学ぶ楽しさや喜びを感じていました。

Q 「好きな本」は

A 稲盛和夫の『生き方』が印象に残っています。

Q 休日の過ごし方

A 大学まで野球をやっていたので、2~3カ月に1度、高校の同級生と草野球をするのが息抜きになっています。

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事業内容:ホテル事業、不動産事業、コンサルティング/研修事業、その他(レストラン運営、食品製造・加工・販売など)

本社所在地:東京都千代田区

設立:1960年2月

資本金:10億円(2022年12月末現在)

従業員数:765人(23年4月末現在)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:269億円

 営業利益:35億円

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 ■人物略歴

よしはら・だいすけ

 1978年東京都出身。私立慶応義塾高校卒業、慶応義塾大学法学部卒業。2011年パレスホテル入社。16年米コーネル大学大学院卒業後、パレスホテル東京副総支配人に就任。取締役、常務取締役を経て、20年3月より現職。45歳。

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週刊エコノミスト2023年8月15・22日合併号掲載

編集長インタビュー 吉原大介 パレスホテル社長