ファイルやライフスタイル用品

キングジム 木村美代子 2025.07.07

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

ファイルやライフスタイル用品

── 創業家出身でない初めての社長、女性としても初めてだそうですが、引き受けた時の印象は。

木村 2022年9月、取締役常務執行役員開発本部長として当社に入社しました。それから半年ほどたち、宮本彰社長(現会長)から次期社長を打診されました。自分にできるのだろうかと1カ月ほど考える中で、「今、自分に声がかかったことには意味がある」と考えました。キングジムでは32年間同じ社長が続き、いい部分もある一方、停滞している部分もあるので、「宮本社長は会社を変えたいのだろう」と思いました。それに役立てるならと、チャンスをいただきました。

── 昨年9月に社長に就任し、もう少しで1年です。

木村 道半ばですが、大きく二つのことを手がけました。一つは、自分と若いメンバーも入れて策定した中期経営計画をどう実現していくか。大きくビジネスモデルを変えるための取り組みを約1年間続けてきました。

 もう一つは、組織の文化や風土のいいところは残した上で大きく変えようとしています。「キングジム・トランスフォーメーション」と名づけ、オープンでフラットになる、リーダーが率先垂範して動く、社外からも学んで共に創造するの3点を掲げ、海外工場を含めた全社員と対話を進めています。

── 「クリエイティブセンター」という組織を作ったそうですね。

木村 デザインをキングジムの強みにするため、社員だけでなく、ソニー出身の大学教授やプロのデザイナーなどの社外の方から「キングジムのデザインはどうあるべきか」「今までのデザインをどう評価するか」といった意見を聞き取りました。優れたデザインと、元々強みがある商品のアイデアが一体となって、キングジムのファンを生むのが狙いです。

── マーケティングに取り組んだ経験をどう生かしますか。

木村 前職の時から「カスタマー・イズ・ファースト」という言葉を大事にしていました。商品を開発する時、販売パートナーだけを見るのではなく、たった一人でもいいからお客様をきちんと見ていこう、誰の何を解決し、どんなメリットがあるのか分かるようにしようと言ってきました。キングジムらしい独創的な視点を入れた商品を作って問題解決をしたいと考えています。

── 24年6月期は赤字決算でしたが、25年6月期はいかがですか。

木村 第3四半期までの24年7月〜25年3月期連結決算は増収増益となり、中計に沿った方向で進捗(しんちょく)しています。大きな要因は、海外で生産する商品の輸入価格を押し上げる円安基調が少し弱まったこと、また無駄なコストを省いて原価を見直したことによる成果があったことです。

 ペーパーレスが進む中、主力商品の「キングファイル」が厳しい状況は変わりませんが、世の中の変化をチャンスにしようと考えています。例えば、ベトナム、インドネシア、マレーシアにある工場でファイルだけでなく、グループ会社の家具を生産し、日本で販売を始めました。今後は生活雑貨など他の商品も海外生産を拡大していきます。今まで家具やキッチン雑貨などのメーカー5社をM&A(企業の合併・買収)により子会社化し、連結売上高の4割を占めています。それらライフスタイル用品事業を拡大します。

 SNS(交流サイト)でファンとともに商品を生み出すことにも力を入れています。昨年は文具ブランド「HITOTOKI」のイベントを東京・代官山で開いたところ、連日長蛇の列となりました。今年6月には本社にファンをお呼びするイベントを開きました。今後はモノを売るだけからサービス事業を展開する予定です。新しい部署を設けて来年春ごろに発表する予定にしています。

海外売上高比率を10%に

── 海外事業はどうですか。

木村 強化します。現在、キングジムの単体売上高に占める海外比率は4%にすぎませんが、10%に高めます。中国・上海、深圳、香港にある既存の事務所や、工場があるベトナム、インドネシア、マレーシアの拠点を活用して、現地の方に合う商品を作っていきます。既にベトナムと上海に開発部隊が入り、現地の方に喜んでもらえる文具やライフスタイル用品を開発しています。

── 社会の変化をどう感じていますか。

木村 今、世の中の変化を感じないといけない。ペーパーレスが進み、働き方が変わっています。すごく温かくていい会社ですが、私が入社してすぐの取締役会で紙を挟んだファイルを渡され、「あれ、これ違うな」と思いました。もっと社外に目を向けることで危機感が醸成されると思っています。2年後が創業100年です。まず働くみんなが未来に向けてやりたいと思えるきっかけになればと思い、プロジェクトを始めています。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 最近買ったものは

A 部下に勧められて「せいろ」を買い、カボチャやニンジンを蒸してオリーブ油と塩をかけて朝ご飯に食べています。

Q 休日の過ごし方

A 週1回、朝に自宅近くで、20代の先生に怒られながらピラティスをしています。友人と一緒にゴルフをするのも好きです。

Q 時間があればしたいこと

A 朝はゴルフして午後はプールサイドでのんびりと過ごす旅を1週間ぐらいしたいですね。

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事業内容:文具事務用品、ライフスタイル用品

本社所在地:東京都千代田区

創業:1927年4月

資本金:19億円(2024年6月現在)

従業員数:1822人(同、連結)

業績(24年6月期、連結)

 売上高:395億円

 営業損失:2億円

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 ■人物略歴

きむら・みよこ

 1964年静岡県出身。83年静岡県立三島北高校卒業。88年東京学芸大学を卒業し、プラスに入社。99年子会社アスクルなどを経て2022年キングジム入社。常務執行役員開発本部長を経て、24年現職。61歳。

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週刊エコノミスト2025年7月15日号掲載

編集長インタビュー 木村美代子 キングジム社長