脱炭素で電炉製品の需要拡大

東京製鉄社長 西本利一 2023.03.13

脱炭素で電炉製品の需要拡大

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 日本最大手の電炉メーカーです。特徴は。

西本 日本の粗鋼生産に占めるシェアは電炉が25%、残り75%が高炉です。当社は1934年の設立以来、国内で発生する鉄スクラップ(鉄くず)を資源としてリサイクルし、多様な鉄鋼製品を電炉で生産しています。特に主力品種である建設用の「H形鋼」は、国内シェアが3割でトップです。

── 新型コロナ禍による影響はどうでしょうか。

西本 当社をはじめ鉄鋼業界にはむしろ、各国の景気刺激策などで鋼材需要が世界的に回復しました。海外のサプライチェーンの停滞を回避するために、日本企業が製造拠点の国内回帰を進める動きが広がっています。そのため、国内工場の建設が増え、鋼材の高い需要が続いています。

 当社の製品出荷単価は2021年下半期に13年ぶりに1トン当たり10万円を超え、22年3月期の純利益は前年比5・4倍の319億円と、9期連続の黒字でした。メタルスプレッド(主原料の鉄スクラップと製品価格の差)の拡大で、今期も通期業績が予想を上回る見通しとなり、期末配当の増額を決めました。

CO2は高炉の5分の1

── ロシアとウクライナの戦争で市況への影響も出ています。

西本 両国はいずれも世界有数の鉄鋼生産国です。22年は戦争で欧州向けの鉄鋼輸出が止まり、欧州で鉄鋼製品が不足し、日本からも輸出が一時急増する事態になりました。その後、パニック的な買いは落ち着きましたが、世界的に鋼材市況は高い水準となっています。

── 鉄鋼業界では高炉メーカーが電炉シフトを進めていますね。

西本 20年に当時の菅義偉首相が所信表明演説で、50年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする「脱炭素宣言」をしたことをきっかけに、電炉は環境対策に優れている、電炉製品を積極的に使うべきだ、との見方が経済界に一気に広がりました。

 日本では、鉄鉱石を原料としてコークスを熱源として使う高炉と比べて、鉄スクラップを原料として電力を使う電炉は、鉄鋼1トン当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が約5分の1で済みます。高炉を中心としたこれまでの生産体制が変わりつつある動きとみてよいでしょう。

── 高炉メーカーとは長年にわたりライバル関係にありました。

西本 日本では高炉を上に見る傾向があるのではないでしょうか。過去に高炉メーカーに対抗したシェア獲得競争は「H形鋼戦争」と呼ばれました。今でも「高炉には負けたくない」という社内のDNAがあると思います。当社も92年から、高炉が得意とする、家電などに使われる熱延広幅帯鋼(ホットコイル)に取り組んでおり、高炉メーカーの市場に参入しました。両者の境目は昔ほどはなくなっていると思います。

── そうなれば、両者で鉄スクラップの争奪になりませんか。

西本 原料のすみ分けができます。高炉業界は薄板を生産する製鉄所内で発生するスクラップや副産物などを循環利用しますが、当社は市中でのスクラップを使います。電炉の製法も原料により異なるため、獲得競争にはなりにくいでしょう。

── 最近の電気料金の上昇は、電炉には痛手ですね。

西本 当社にとって深刻な状況です。23年に入り、足元の電気代は従来の約2・5倍に跳ね上がっています。中国経済の失速に伴う鉄スクラップ市況の値下がりで、今のところ電気代の高騰をカバーできる状況ではありますが、このまま続くと利益率が圧迫されるため、来期のどこかで電力コスト増加分の価格転嫁が必要になります。電力に代わる再生可能エネルギーの有効活用も始めています。

── 具体的には。

西本 九州電力から太陽光発電で発生した余剰電力を提供してもらい、当社の九州工場で使っています。従来、電炉は電気代が安い夜に工場を操業していましたが、これにより昼間も操業できる体制に切り替えました。中部電力とも同じ取り組みを始めました。

── 今後の鉄鋼生産計画はどうでしょう。

西本 増産します。カーボンニュートラルの流れを受けて、休止設備をどんどん復活させています。年間生産量を現在の300万トンから、30年には600万トン、50年は1000万トンに引き上げるのが目標です。国内全体の粗鋼生産は高炉業界が設備の集約化を進めているため減少が続いていますが、当社は増産体制です。

 22年にはトヨタ自動車のサーキット競技車両(水素カー)に当社の鋼板が初めて使われました。走行安定性を支える「ロアアーム」という部分です。高炉が強い自動車関連への参入で弾みをつけ、さらに当社製品の採用分野を増やしたいと思っています。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 鉄鋼市況の不振が響き、2013年3月期に売り上げよりも大きな最終赤字を出しました。針のむしろの気持ちでした。

Q 「好きな本」は

A 稲盛和夫さんの『活きる力』です。

Q 休日の過ごし方

A 山登りです。高尾山や八ケ岳など、月1回くらいのペースです。

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事業内容:鋼塊、各種鋼材、特殊鋼、鉄鋼製品の製造及び販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:1934年11月

資本金:308億9400万円

従業員数:1020人(2021年3月末、非連結)

業績(22年3月期、非連結)

 売上高:2708億8300万円

 営業利益:317億7300万円

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 ■人物略歴

にしもと・としかず

 1960年富山県出身。県立富山東高校卒業、84年早稲田大学理工学部卒業、東京製鉄入社。2001年岡山工場圧延部長、04年高松工場長を経て、06年6月から現職。62歳。

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週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載

編集長インタビュー 西本利一 東京製鉄社長