社会課題解決へ、未来の街づくり

日建設計 大松敦 2022.12.05

 

社会課題解決へ、未来の街づくり

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 設計会社として、どのような仕事をしていますか。

大松 建築や都市の設計、計画、関連するコンサルティングやマネジメントです。例えばビルを建てる際、形やデザイン、用途などを建築主と考え、設計図にまとめます。工事の際には、図面の意図通りに進んでいるかを監理します。完成後には、空調や照明など使い方のアフターフォローをします。

 建築の際には、図面通りの機械や窓のひさしが製造できるかなどをメーカー側と調整する必要もあり、図面を作成するだけでなく、機能や品質、コスト、スケジュールなど調整の山です。都市設計となると、人々の感情に訴えかけるような調整もさらに加わります。

── 渋谷駅周辺で長期に及ぶ再開発に携わっています。

大松 東急東横線が東京メトロ副都心線と相互直通すると2000年ごろ決まり、工事が始まりました。路線統合で余裕ができたスペースにビルを建てて終わりとの選択肢もありましたが、渋谷駅は複雑で乗り換え時間がかかり、駅前の交通も混雑していて、同時に解決できないかを模索しました。

 加えて東横線から池袋や新宿に直接つながれば、渋谷の街が素通りされる可能性も出ます。逆に、街をにぎやかにできれば人を呼び込めます。総合的な街づくりを念頭にJR東日本、東京メトロ、東京都や渋谷区などとも考えました。長期の大規模事業で、当社社員の1割ほどが関わってきました。

── 他にどのようなプロジェクトを手掛けていますか。

大松 東京駅八重洲側を開発しました。古い駅ビル3棟を左右の2棟に集約し、中央にグランルーフ(長さ約230メートルの大屋根)をかけ、公共空間を広げました。公共空間が増えると一般利用者は使いやすくなります。東京ミッドタウン日比谷の事業では、最寄りの地下鉄が千代田線と日比谷線の2路線あり、接続通路は狭く、段差もありました。バリアフリー化や商業ビルとの連結通路導入などで空間の価値を高められたと思います。進行中の事業はJR大阪駅北側の「うめきた」開発や大阪・関西万博の日本政府館があります。

── 巨大プロジェクトを多く受託している強みは何でしょうか。

大松 一番は規模の大きさです。当社には約2300人の従業員がおり、業界では世界的にも有数の規模です。多様な得意技を持つ人が集まり、建設種別でほとんどの種類に対応できますし、都市開発に強みを発揮できます。数十年かかる事業に対応できる経営体力も重要です。景気の波は必ずありますが、急にできなくなれば依頼主や行政に迷惑がかかります。

── 景気の波がある中でも業績を伸ばしています。その秘訣(ひけつ)は。

大松 単純な物を早く造ろうという高度経済成長期の考え方ではなく、時間がかかっても良いものを、という成熟した社会になってきました。当社はそのニーズに合致できていると考えています。1950~60年代に造ったインフラなどの更新時期でもあります。単なるスクラップ・アンド・ビルドではなく、良い物を残しながら、少しずつ造り替える時代に来ており、その需要を取り込みます。

── 海外プロジェクトの現状は。

大松 新規受託額としては、新型コロナウイルス禍前は15%ほどでしたが、渡航制限などで10%近くまで落ちました。今後は現地法人の強化など工夫します。ただし地政学的なリスクも踏まえ、20%が一つの均衡点と考えています。

── 特に力を入れている国・地域はどこでしょう。

大松 海外から見ると、なぜ日本の設計事務所に頼むのかということもあり、欧米の事例はあまりありません。当社が強みとする駅や駅周辺を一体的に開発する事業では中国が増えており、海外事業の半分ほどあります。中国は都市構造を公共交通型に変えようとしており、当社の経験を生かせます。

 中東にも力を入れています。新宿副都心のような街がサウジアラビア・リヤドにあり、超高層ビルのプロジェクトを手掛けています。日本的というか、あまり華美でない、かつインパクトあるデザインが受け入れられた例です。

社会貢献の価値観共有

── 多くのプロジェクトを受託するに当たり、M&A(企業の合併・買収)による規模拡大もあり得ますか。

大松 価値観を共有できることが何より大事です。共有できる人に外部から来てもらうとともに、社内でも育てることで、少しずつ規模を拡大します。買収や統合は考えていません。創業以来120年間育んだ文化、社会貢献という価値観を見失いたくありません。

── 株式公開していませんが、今後も方針は変えませんか。

大松 (非上場という)今の状態のままが良いと思っています。外部の投資家に対する気遣いなしに、中立的な立場で自分たちが社会にとって必要だろうというものを提案し、発信できるからです。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

A 東京・汐留やさいたま新都心などで都市開発に携わっていました。調整が多く、理屈だけでは進まないことを体感しました。

Q 「好きな本」は

A 雑読的に何でも読みます。最近印象的だったのは中国のSF小説『三体』や、野村泰紀著『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』です。

Q 休日の過ごし方

A 半分はゴルフです。行かない時は、買い物や国内旅行など家族と過ごすことが多いです。

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事業内容:建築の企画・設計監理、都市・地域計画及び関連する調査・企画コンサルタント業務

本社所在地:東京都千代田区

創業:1900年6月

資本金:4億6000万円

従業員数:2987人(2022年4月現在、グループ全体)

業績(21年12月期、単体)

 総売上高:573億1700万円

 営業利益:61億2500万円

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 ■人物略歴

おおまつ・あつし

 1960年東京都出身。都立戸山高校卒業。83年東京大学工学部建築学科を卒業、日建設計入社。企画開発室長などを経て2011年に執行役員。取締役常務執行役員都市部門統括などを経て21年1月から現職。62歳。

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週刊エコノミスト2022年12月13日号掲載

編集長インタビュー 大松敦 日建設計社長