ものづくりをデジタルモデルへ

ミスミグループ 大野龍隆 2025.06.23

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

ものづくりをデジタルモデルへ

── 事業の柱を教えてください。

大野 工場の生産設備に使われる機械部品や、それらを作る時に必要な消耗品を企画・販売しています。長さや大きさ、穴の位置の違いなど、商品の種類が非常に多く、こうしたニーズに対応するマスカスタム(大量生産と個別受注生産を両立)された商品を確実短納期で提供するビジネスモデルが特徴です。1個から数千個単位の注文があり、一品一品寸法指定されるケースもあります。そういった製品を、日本国内では標準2日で出荷することを強みにしています。

── 2025年3月期決算は売上高が前期比9・3%増、営業利益が21・2%増と好業績でした。

大野 主因は中国市場が好調だったことです。世界的にデータセンターの需要が高まっている中、データセンター向け機械設備は中国で作ることが多く、中国向けの受注が好調でした。

── 最近は「meviy(メビー)」と呼ぶ事業に代表されるデジタル対応策に注力していますね。

大野 生産設備を構成する機械部品の半分が標準品ですが、残りの半分は標準規格化が難しく、顧客がその都度図面を描いて調達するカスタム品で紙の図面でやり取りするため、非常に手間がかかる。そこをITで効率化したのがメビーです。顧客がCAD(コンピューター利用設計システム)データをアップロードすると、自動で見積もりをして生産に入り、短納期で商品を提供します。

── デジタル対応策の一つに「D─JIT」と呼ぶ事業もありますね。

大野 デジタルのジャストインタイムです。当社は小口短納期に強いですが、量がまとまった案件は他社との競争が激しく、受注率が低い。そのギャップを埋める取り組みがD─JITです。具体的には、我々の協力仕入れ先500社をネットワークでつないで在庫状況を把握し、当社の在庫を超える量の注文が来た際には、協力仕入れ先から商品を調達します。

── 今年4月に米フィクティブの買収を発表しました。

大野 フィクティブはメビーと似た事業を展開していて、非常に親和性が高い。当社は生産設備の顧客が中心ですが、フィクティブは研究開発など試作を作る顧客が中心で、補完関係にあります。シナジー効果と顧客拡大のために買収しました。

── 廉価帯の「エコノミーシリーズ」も展開していますね。

大野 中国やアジアなどで一番伸びているのは、コストを優先するものづくりです。そのため、従来のハイスペック品と併せて、少しダウングレードした製品でエコノミーな価格の商品シリーズを展開しています。中国市場の好調は、このエコノミーシリーズがけん引しています。

工場消耗品を自販機で

── 顧客工場内に自動販売機を置く新サービス「MISUMI floow(ミスミ・フロー)」を新たに始めました。

大野 メンテナンス品や手袋など、生産に必要な消耗品の管理は、顧客工場内であまりうまくいっていない。そこで、顧客が使う頻度に商品を分けて、高頻度で使う商品は、我々が提供する自動販売機を工場内に入れ、その自販機から必要な時に常時商品を購入できるようにします。中頻度の製品は我々が在庫を預かり、要望がある時に定期便で届ける。低頻度品は都度調達される商品で、ミスミのEC(電子商取引)サイトを活用していただいたり、専任担当が対応したりします。これにより、消耗品の管理や調達を高度化させて、コストダウンに貢献します。

── サービスの手応えは。

大野 中国では1700台の自販機が稼働しています。日本でも昨年、実証実験を始めて110台が入り、顧客の反応は良好です。

── トランプ関税の影響も含め、中国市場の見通しは。

大野 非常に不透明ですが、現在の中国のものづくりの優位は変わらないと思います。ただし、中国の内需を見ると、従来のように一本調子の成長が続くことはないと思うので、中国への投資は若干控えています。むしろ、米国の製造業回帰に対応するため、米国重視に切り替えています。

── 今後の展望は。

大野 現在進めている「デジタルモデルシフト」の根底にあるのはものづくり産業への貢献です。産業構造は大手メーカーを頂点とするピラミッド構造ですが、下層の裏方の役割をする企業が弱っています。技術継承や人手不足、IT対応などの問題で苦しみ、廃業する企業が増えると、ピラミッドの頂点のメーカーも困る。そこで我々はITやAI(人工知能)を駆使した新しい事業形態を作って、脆弱(ぜいじゃく)化していくサプライチェーンを再度強靭(きょうじん)化するお手伝いをしていきたい。そのためにデジタルモデルへのシフトを今後も加速していきます。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 多角化系の事業の立ち上げをやっていました。当時、会社が機械工業以外の事業を育てて伸ばす方針を取っており、貢献しようと頑張っていました。

Q 「私を変えた本」はありますか?

A 大野耐一さんの『トヨタ生産方式』です。生産部門を担当している時期に読みましたが、規模を追わない考え方と人間尊重の思想に感銘を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 仕事が気になることが多いので、動画配信サービスで映画やドラマを見て没入するようにしています。

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事業内容:FA事業、金型部品事業、生産関連部品や消耗品を供給する事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1963年2月

資本金:144億8300万円(2025年3月)

従業員数:11,064人(連結、25年3月現在)

業績(25年3月期)

 売上高:4019億円

 営業利益:464億円

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 ■人物略歴

おおの・りゅうせい

 1964年生まれ、東京都出身。栃木県立石橋高校卒業、87年茨城大学卒業、ミスミグループ本社入社。2007年取締役執行役員、08年取締役常務執行役員、13年1月専務取締役を経て、13年12月代表取締役社長、14年6月代表取締役社長CEO、20年2月から代表取締役社長。60歳。

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週刊エコノミスト2025年7月1・8日合併号掲載

編集長インタビュー 大野龍隆 ミスミグループ本社社長