経営資源を「勝ち筋」に集中
丸紅 大本晶之 2026.01.05
Interviewer 清水憲司(本誌編集長)
経営資源を「勝ち筋」に集中
── 2025年4月に社長就任後、半年以上が経過しました。
大本 まずは現場を徹底的に回り、100カ所以上を訪れました。現場で起きていることを社長として正確に理解し、会社の経営方針と現場の認識を一致させることに力を注ぎました。同時に、アナリストや機関投資家との対話を重ね、どのように当社が見られているのか、どこに課題があるのかを聞いてきました。丸紅本社では部門長や部長、コーポレート部門の責任者と対話を重ねました。
私は「アラインメント(一致させる)」という言葉を大切にしています。戦略を全社で共有し、同じ方向を向くことに腐心してきた半年間だったと思います。
── 一度退社して復帰したり、次世代事業開発を進めた後に社長に就任したりと、異例の経歴を歩んできました。こうした経験を社長業にどう生かしますか。
大本 一言でいえば、「俯瞰(ふかん)する力」だと思っています。(米コンサルタント会社)マッキンゼー・アンド・カンパニーでの経験もそうですし、次世代事業開発の取り組みも特定の領域に限ったものではありませんので、非常に幅広い領域を見てきました。
当社には多様な事業がありますが、俯瞰した時に時代や時間を超えて次の世代を支えていく普遍的な価値を持つ事業とは何かを、次世代事業開発で考えてきました。一方で社外に出たからこそ見えた丸紅もあります。そうしたものを掛け合わせ、本質的で、強いビジネスとは何かという考え方が整理されました。こうした思考は自分にとって財産だと感じています。
── 事業領域自体が時代とともに変わる商社を、どのように経営するかにつながるわけですね。
大本 そうですね。俯瞰して、アラインメントをするわけです。どの事業領域から、という議論ではなく、どのようなビジネスモデルが今後伸びていくのか。そこにフォーカスしています。「戦略プラットフォーム型事業」や「勝ち筋」という言い方をしており、ここに経営資源を集中していきます。
これらには共通する要素が三つあります。今後成長が見込まれる事業領域をしっかり押さえていること、付加価値の高いサービスや商材を持っていること、それをさらに拡張していく手段があること、という三つです。これらがビジネスの中に入っていると伸びていくというのが当社の歴史です。農業資材販売事業や北米モビリティー事業(自動車販売金融やリースなど)などが該当します。
世界を俯瞰するとともに過去を振り返り、何が機能し、何が機能しなかったのかを整理して、今の時代に当てはめていくということを目指しています。
農業経営を個別最適化
── 現在注力している具体的な案件についてお聞かせください。
大本 米国で農業資材販売を手がける子会社のヘレナ社は分かりやすい例です。農業分野は長期的に見て、年5〜7%程度の成長が続いています。ヘレナは単に肥料を販売するのではなく、農家の土壌を解析し、どの作物が最適かをシミュレーションした上で、独自に調合した肥料を提案します。その結果、収量や収益がどの程度改善するかを可視化し、1〜2年かけて伴走しながら農家に製品を使ってもらいます。個別最適化されており、付加価値が高い事業です。
現在、北米中西部を中心に約550拠点ありますが、まだ拡張余地は十分にあります。小規模な拠点を買収し、自社の製品やサービスを展開していくことで、全体を成長させることができます。
── 他の事例はいかがですか。
大本 菓子事業も同じ型で整理できます。当社傘下には菓子卸で国内トップ級の山星屋があり、自社のプライベートブランド商品も出しています。また、明治から買収した「ヨーグレット」などの商品で知られるアトリオン製菓(旧・明治産業)もあり、卸とメーカーの両面で価値を高めることができます。卸のシェアを拡大する、新商品を開発するなどの拡張策があります。このように、個別の事業領域ではなく、常にこの戦略プラットフォームという枠組みで説明しています。
── 25年11月に発表した25年4〜9月期中間決算の評価は?
大本 純利益ベースで前年同期比28%の増益となり、この点は評価してよいと考えています。戦略プラットフォーム型事業は現在、6領域がありますが、全体で2ケタ%以上の利益成長を確保できました。勝ち筋に経営資源を集中する戦略が、一定程度機能していることを確認できた点はプラスです。
全体を見ると一部に減速している事業もあります。特に米国の農業分野は前年同期比で微減となっており、課題意識を持っています。ただし、事業そのものが悪化しているわけではなく、米中対立の影響や天候要因など、25年の外部環境が影響した面が大きいとみています。
(構成=安藤大介・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A コロナ禍で社内には「次世代事業開発をやめてしまえ」との声もありました。過去の当社の勝ち筋を振り返り、普遍的要素を抽出することにつながりました。
Q 「好きな本」は
A 司馬遼太郎『坂の上の雲』です。私の出身校、松山東高校は主人公が学んだ旧制松山中学で、特別な思いがあります。世界の戦史を学び、戦術を考える姿勢は経営にも通じます。
Q 休日の過ごし方
A 妻との散歩です。喫茶店に立ち寄り、歩いて帰るだけですがリフレッシュできます。
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事業内容:総合商社
本社所在地:東京都千代田区
創業:1858年5月
資本金:2637億円
従業員数:5万1834人(2025年3月31日現在、連結)
業績(25年3月期、連結)
売上高:7兆7901億円
営業利益:2723億円
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■人物略歴
おおもと・まさゆき
1969年生まれ。愛媛県出身。松山東高校卒業。1992年早稲田大学商学部卒業、丸紅入社。2004年米ハーバード大学経営大学院で経営学修士(MBA)取得。06年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。07年丸紅再入社。24年常務執行役員。25年4月から現職。56歳。
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週刊エコノミスト2026年1月13・20日合併号掲載
編集長インタビュー 大本晶之 丸紅社長
