データ事業とDXで名門再建

東芝 島田太郎 2022.10.11

データ事業とDXで名門再建

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 6月発表の経営方針で、2030年度に売上高5兆円、営業利益6000億円を掲げました。成長の柱がデータサービスです。その狙いを教えてください。

島田 世界的に企業価値を大きく増大させている企業の多くはプラットフォーム化をしています。米巨大テック企業5社GAFAMや中国IT大手が該当します。サイバー空間でビジネスを伸ばして成長を継続していることが特徴です。当社は優れた技術を持ち、インフラ関連で多くの事業を手掛けています。インフラから生まれるデータを糧に、プラットフォーマーに近いサービスを提供して成長する。それが根本の考え方です。

── どのインフラからどのようなデータが取れるのですか。

島田 例えば、POS(販売時点情報管理)のデータです。当社の「スマートレシート」というサービスに約90万人が登録し、利用者数が1年間で2・5倍に増えています。電子レシートを購入者のスマートフォンに返し、利用者は購入した店舗からクーポンをもらえます。この購買情報を得ることで、さまざまなビジネスが展開可能です。例えば、購入者がビールをA社からB社に乗り換えたという、従来は取れなかったデータが取れます。広告効果を測定する上で非常に効果的です。このデータを採用したテレビ局が広告収入を増やしています。当社のPOSの市場シェアは日本で50%以上、世界でも約20%。これをつなぐことができれば従来とは比較にならない量のデータへのアクセスができるようになります。

── ほかにもデータビジネスの種は多くあるのですか。

島田 当社には広範な消費者との接点があります。鉄道駅の機器やエレベーターなどで収集したデータをつなぐことができるでしょう。気象データも有力です。大気中の水分の量を計測できる特殊なレーダーを開発していて、近年被害が増えているゲリラ豪雨の測定に使えます。以前はレーダーを売ることで商売が終わっていましたが、今は情報を基にさまざまなサービスを創造しようと動いています。

── サービスを付加してもうける仕組みを狙っているのですね。

島田 2段階のプロセスがあります。デジタル化のソリューションを提供して、顧客が手掛けてきたサービスを代わりに提供するもの。「デジタルエボリューション(進化、DE)」と呼んでいます。この段階では当社の顧客は従来と同じです。一方、スマートレシートはデジタルトランスフォーメーション(DX)です。従来の顧客にPOS機器を売るだけでなく、POSを起点にサービス提供対象を増やしています。テレビ局だけでなく、商品開発担当者、情報提供会社、証券会社、政府などデータの提供先が広がります。

株式非公開化は選択肢

── 昨年度の部門別利益は半導体などデバイス、上下水道や鉄道、ビル電源などインフラ、電力機器などエネルギーの順です。今後の成長性をどうみていますか。

島田 脱炭素化とデジタル化の2点に集約されます。例えば、省エネルギーで必要なパワー半導体は今後も確実に伸びる市場であり、1200億円の設備投資を行います。エネルギーやインフラでは、人手が足りません。上下水道も(自治体が)運用していくことが困難になっています。そうした施設にデジタル監視システムを提供して要員減に役立ててもらい、その対価を得ることも可能です。

── 岸田文雄首相が8月に原発新増設の検討を表明しました。東芝の原発事業に与える影響は。

島田 原子力は成長戦略ではなくて、当社が日本に果たすべき義務だと考えています。福島第1原発から出る汚染水を浄化する当社製の「ALPS」が動かなければ、廃炉作業は解決しません。新設や開発に国が積極的に動くなら喜ばしいことと思います。ただ、これは国民が決めることだと思いますから、当社は安全性を高める技術開発を着実に進めます。

── グループ再編策として7月に2次入札に進む複数の候補を選び、各候補が東芝の資産査定中です。株式の非公開化や上場維持の提案があると理解しています。非上場化だと、レバレッジド・バイアウト(買収対象企業の資産や収益力を担保にする買収)が前提になり、東芝の負債が増えて財務体質が悪化する懸念はないですか。

島田 (非公開化は)一つの選択肢でしょう。当社は現金が豊富で、従来からの継続事業で比較すると最高益の状態ですし、今後もよくなると考えています。「返済してもらえる」と銀行が思えるようなキャッシュが稼げている状況なので、選択肢として十分にあり得るでしょう。ただ、株主の求めるものは、長期で巨大な価値、定期的な還元、短期で巨額のキャッシュなどさまざまです。経営陣がその調整をすることはできません。当社が示す判断に対して株主がどう考えるかということになるでしょう。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 新明和工業で手掛けたUS2(救難飛行艇)の設計です。防衛庁(当時)との折衝でも出口が見えません。上司に励まされて何とかなりました。

Q 「好きな本」は

A ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』ですね。モノの見方を根本的に変えると思います。

Q 休日の過ごし方

A ドイツ語でニュースを聞きながら朝6キロ走って家でピアノを弾いて会社に行く。帰宅後ストレッチ体操をして本を読んで寝る。平日も休日も一緒です。

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事業内容:総合電機メーカー

本社所在地:東京都港区

創業:1875年7月

資本金:2008億6900万円

従業員数:11万6224人(2022年3月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:3兆3369億円

 営業利益:1589億円

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 ■人物略歴

しまだ・たろう

 1966年大阪府出身。大阪府立市岡高校卒業、甲南大学理工学部卒業、90年新明和工業入社、2015年9月独シーメンス日本法人専務などを経て18年10月東芝入社、コーポレートデジタル事業責任者、19年4月執行役常務、20年4月執行役上席常務を経て22年3月から現職。55歳。