「空気圧機器で世界の工場を自動化」

SMC株式会社 高田芳樹 2021.12.20

空気圧機器で世界の工場を自動化

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 主力の空気圧機器とはどのような製品でしょうか。

高田 圧縮空気を動力源として空気の流れを制御しつつ、物を動かしたり、つかんだりする部品です。あらゆる業種の工場内で、人間の手の代わりに作業をする自動制御機器として需要が伸びています。半導体製造工程ではさまざまな製造装置に組み込まれており、例えばチップを装置の的確な場所に運搬するために一役買っています。自動車産業では溶接ロボットの爪に組み込まれているほか、塗装の際に塗料を精緻に吹き出すために使われます。工作機械や食品メーカーの製造・梱包(こんぽう)自動ライン、さらには新型コロナウイルス対応で需要が伸びているマスクの製造装置などでも使われていますよ。(2022年の経営者)

── 工場自動化の動力源は他にもあります。空気圧の強みは。

高田 動力源には主に油圧、電気、空気圧があります。油圧は10トン級の重い物を動かすのには向いていますが、小さい物に対してはオーバースペック(機能過多)になります。電気は小さい物も大きな物も動かせますが、プログラミングに手間がかかり、モーターもセットにしなければならず、熱も出します。これに対して空気圧は、小型・軽量の部品で、人間が動かせる程度の重さに対応可能です。取り扱いは簡単ですし、大気中に排出しても問題がない空気を使っているので環境に優しいんです。

世界シェアはトップ

── 具体的に、どのような製品を作っているのですか。

高田 空気圧で物を動かす「エアーシリンダー」、空気の流れを制御する「バルブ」、空気内の余分な熱や水分を除去する「ドライヤー」などの空気圧機器を中心に、半導体製造に使われる薬液の温度管理に使う温調機器や各種センサーなども含め、自動制御機器関連で70万品目を超える製品を製造しています。

── 工場自動化は世界的な潮流です。海外向けも多いのでは。

高田 海外売上比率は73%で、うち中国が24%、中国以外のアジアが17%、欧州が17%、米国が11%です。国内外のシェアで見ると、世界が38%、国内は65%でいずれもトップ。しかし、空気圧機器は用途が多様で、市場全体の把握は困難であり、あくまでも参考値だと考えています。

── 特に伸びている用途は。

高田 半導体製造装置向けや、電気自動車(EV)、EV用の電池の生産ライン向けが伸びています。そのほかの製造業でも、生産年齢人口の減少や、コロナ禍の中でソーシャルディスタンス確保の必要性から、工作機械や工場自動化の需要が伸びています。全世界で需要が増えており、注文をさばききれない状況です。

── 半導体関連は活況ですね。

高田 米国の装置メーカーとは長年取引があります。2022年も装置メーカーは強気で、当社の部品についても生産能力を上げてほしいと言われるほどです。かつて半導体市況は数年おきに激しく上下動していましたが、しばらくは上昇基調が続くのでは。よって、設備投資需要も高い状態が続くと思っています。

── 旺盛な需要は業績にどのように反映されていますか。

高田 今年度(22年3月期)は創業以来、一番勢いがあります。21年9月中間決算発表時に、通期の純利益予想を過去最高の1630億円に上方修正(従来予想は1500億円)しました。ただし、半導体、電子部品、樹脂といった部材の不足など注意しなければいけない点も多いです。

── 今後の生産態勢についてはどう考えますか。

高田 現在は世界29カ国・地域に生産拠点があります。量産工場は中国の北京、ベトナム、シンガポール、インド、チェコ、日本の6カ所です。需要増に対応して21年、中国・天津に新工場を完工し、ドイツでも新工場を建設中です。

── 目下好調ですが、今後開拓していきたい地域はどこですか。

高田 当社にとっては、半導体、自動車、工作機械が主要な需要先ですが、食品ラインや医療機器向けも広げていきたいですし、まだ伸びしろがあります。食品や医療機器は伝統的に欧州、特にドイツ語圏であるドイツ、スイス、オーストリアなどが強いので、この地域での顧客開拓を狙います。

── 世界的に脱炭素の流れが加速しています。事業への影響は。

高田 当社にとっては大きな商機です。空気圧機器はもともと環境負荷が低いうえ、当社の製品は同じ大きさの物を動かすにも、他社より軽量小型で済みます。小さい分、素材を使いませんし、加工時間も短く済みます。

 また、工場や製造ライン全体で空気圧を監視し、最適に制御して必要な箇所にだけ空気圧をかけるシステムをパッケージとして提案していきます。システム導入により、顧客企業は必要以上に工場内に高い空気圧をかけずに済み、省電力が実現できます。

(構成=種市房子・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A SMCアメリカの社長時代、納期が遅れ、毎朝、顧客からの問い合わせに追われました。大変な経験でしたが、今もその顧客は当社製品を使ってくれています。

Q 「好きな本」は

A 『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん)です。

Q 休日の過ごし方は

A 単身赴任ですので、まずは掃除洗濯でしょうか。趣味のドライブもします。


 ■人物略歴

高田芳樹(たかだ・よしき)

 1958年生まれ、東京都出身。市川高校(千葉県)、上智大学法学部卒業後、82年三菱商事入社、87年SMC入社、88年ロンドン大学政治経済大学院ディプロマ修了、94年取締役。SMCアメリカ社長、SMC副社長などを経て2021年4月から現職。63歳。


事業内容:自動制御機器製品の製造・加工・販売など

本社所在地:東京都千代田区

設立:1959年4月

資本金:610億円

従業員数:2万619人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:5521億円

 営業利益:1533億円