住宅地図から地理空間情報サービスへ

ゼンリン 竹川道郎 2026.01.19

Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

住宅地図から地理空間情報サービスへ

── 2025年3月期の営業利益が前期比98%増と好調だった要因は何ですか。

竹川 一つ目に挙げたいのは、「GIS(地理情報システム)パッケージ」という企業向けプロダクトの採用が順調に進んでいることです。このプロダクトは、当社の住宅地図を利用する顧客が参照することの多い情報を標準機能として提供したものです。例えば不動産業なら、自社で管理する物件について、貸し出す際には学校の校区を把握しておかないといけないし、登記する時には地番を調べる必要があります。こうした不動産業、建築業といった業種ごとの定型業務に関わる情報を一元的に地図に落とし込んで、必要な時に抽出できるのがGISパッケージです。

 二つ目は、カーナビゲーションシステム向けに地図だけでなく、アプリ(ソフトウエア)を提供するなどの取り組みが奏功し、増収となりました。三つ目は、人件費や調達素材の値上がりに伴って価格改定したことの効果が出てきたことです。今後は顧客のニーズにさらに応えるため、「セレクションサービス」という新サービスを考えています。

── どんなサービスですか。

竹川 GISパッケージの機能ごとにモジュール(部品)化し、顧客の要件に合わせて組み合わせられるようにしたサービスです。今、開発を進めており、一部地域で顧客の要件を聞くテストマーケティングをしています。利益率の高い商品を手掛ける中で、成果が出てきたと思っています。

「地図の使い方」を提供

── 2030年度に向けた中長期経営計画で特に力を入れる点を教えてください。

竹川 25年4月に26〜30年度の中長期経営計画「ZGP2030」を発表しました。この中で最も強く打ち出したのは「地図提供会社から地理空間情報サービス会社になろう」というメッセージです。当社が今まで培った知見をしっかり活用して、顧客に地図情報を使った機能や用途、つまり「地図の使い方」を今まで以上に提供していく。位置に関わるあらゆるものは当社が一元化して使い方まで含めて提供するという決意です。

── 具体例はありますか。

竹川 当社のプロダクトやサービスは不動産業、建築業、物流業といった特定の業種の特定の業務に特化したものが多いのですが、これを中堅企業や自治体といった地域経済圏の担い手に広げ、顧客のニーズに合う価値を提供していきます。例えば、小売業が出店先を検討する際、「候補となる地域のどこに用地があるか」「どんな道に接しているか」「人流がどうなっているか」「商品の配送拠点からどれぐらい時間がかかるか」といった情報を集めます。当社がそれらの位置情報をキーにしてつなげ、顧客の検討作業を効率化します。

 もう一例は、東急不動産ホールディングスが25年10月に運用開始を発表した「地図DX」です。同社が公開情報や専門データサービスから得た不動産用地などに関する情報をゼンリンが提供するGISに集めて可視化したシステムです。今までは手作業で収集していた情報が一つのシステムに集約されるようになり、常に最新の情報に更新されます。例えば、「ここにどんな建物を建てられるか」といった分析を効率化するのが狙いです。東急不動産の方から仕事内容を伺う中で、当社から提案して実現しました。

今は第三の創業期

── もはや地図会社ではないのですね。

竹川 当社は1948年の創業時から住宅地図を手がけ、のちに全国をカバーして出版してきました。80年代には地図に記載する内容をデジタル化したことでカーナビゲーション市場に参入できました。住宅地図が第一の創業、デジタル化が第二の創業だとすると、今は第三の創業というぐらいの心意気でやらないといけないと思っています。

 昔は計測車両に取り付けたビデオカメラで撮影していましたが、360度カメラになり、解像度が上がり、人流などいろいろな情報が取れるようになってきました。さらに収集した大量のデータをAI(人工知能)で最適化できるようになるという大きな変化が起きています。

 一方で、当社の調査員が現地を確認し、空間データとして整え、提供する。これはAIが使われるようになる中でも、ゼンリンのDNAであり、一番の強みですので、ここは残す、変えない部分になるでしょう。もっとも、人が収集してきた情報を地図データとして形にしたり、他の情報と関連付けたりといった情報化、情報データベース化の工程はAIのような仕組みで自動化・効率化するようになると思います。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 新規事業や新規プロジェクトにチャレンジする仕事に多く携わりました。

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2003年ごろ「通信カーナビ」に取り組みました。当時は技術を先取りしすぎて軌道に乗せられませんでしたが、その後の事業展開に生きる経験でした。

Q 「好きな本」は

A 米経営学者クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』を05年ごろ読んで衝撃を受けました。

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事業内容:位置情報サービス関連事業

本社所在地:北九州市

創業:1948年4月

資本金:65億円(2025年3月31日現在)

従業員数:3574人(同、連結)

業績(25年3月期、連結)

 売上高:643億円

 営業利益:39億円

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 ■人物略歴

たけがわ・みちお

 1973年福岡県出身。92年福岡大学付属大濠高校卒業。96年熊本大学法学部卒業、ゼンリン入社。2016年ADAS事業推進室長、18年執行役員事業統括本部IoT事業本部長、22年執行役員経営戦略室長、25年現職。52歳。

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週刊エコノミスト2026年1月27日号掲載

編集長インタビュー 竹川道郎 ゼンリン社長