新規事業創出と組織再編で見据える「売上高3兆円」

京セラ株式会社 谷本秀夫 2022.08.01

組織再編で目指す「売上高3兆円」

谷本秀夫 京セラ社長

 

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

 

── 昨年度(2022年3月期)は売上高が1兆8389億円で過去最高となり、23年3月期には社長就任(17年)時に掲げた「売上高2兆円」を達成する見込みです。

谷本 事業環境の改善に加え、5G(第5世代移動通信システム)や半導体関連市場向け部品への増産投資が寄与しました。半導体製造装置用のセラミック部品が最も好調で、半導体を保護するセラミックパッケージや有機基板も伸びています。半導体は旧型世代の需要が23年ごろに頭打ちとなる見方もありますが、データセンターや自動車向けのADAS(先進運転支援システム)といった周辺の投資はしばらく落ち着きそうにありません。

── 最先端半導体向けの需要は一定期間続くとの見方ですね。

谷本 当面続くと見ています。新型コロナウイルス禍でインターネットによるデータ通信量が拡大し、今後、メタバース(三次元の仮想空間)分野の進展でデータ量は加速的に増えるでしょう。かつて半導体は4年周期で好不況を繰り返していました。最近は7~8年周期となっていますが、当面は違う技術に置き換わることはないと見ています。そのため、今期は半導体関連の設備投資に1000億円程度を計画しています。

── 先端品向けのセラミック部品の強みはどこにありますか。

谷本 超小型の半導体や電子部品はセラミックでなければ強度がもたないため、一定領域で必要とされており、当社の技術が役立っています。半導体製造装置向けのセラミック部品やセラミックパッケージは世界シェアのおよそ7割を占めています。

 

全セグメントで2割増収

 

── セグメント別でみると、半導体関連を含む「コアコンポーネント」だけでなく、「電子部品」「ソリューション」が好調です。

谷本 21年度は3セグメント全てで約2割増収になっています。電子部品では、通信端末向けの小型の高容量コンデンサーや、ウエアラブル型機器に必要な小型の水晶振動子も注力しています。ソリューションでは、プリンター機器などの事業が最も大きいですが、ペーパーレス化に伴い、縮小する領域でもあるので、徐々に商業用へ軸足を移します。

── もともと16あった事業部門を、21年4月から三つに集約しました。組織再編の理由は?

谷本 縦割り型組織は大量生産、大量消費の時代にうまく機能しましたが、今は少量で多様な製品が求められる時代です。技術を組み合わせて多様な製品を開発するために、事業部間の連携を強化する狙いがあります。

 また、当社はもともと10人程度の小集団ごとに採算を管理する「アメーバ経営」を続けてきましたが、組織が大きくなるに従い、採算のみの指標ではモチベーションにつながりにくい部門も出てきました。AI(人工知能)やロボットの活用が進む中、チームが成果を実感できる新たな指標が必要で、その側面から「アメーバ経営」を進化させる考えです。

── 組織再編の好事例は。

谷本 例えば、インクジェットプリントヘッドという部品を作る部門と、プリンターを製造する部門は別々でしたが、両部門のシナジーにより商業用インクジェットプリンターを開発しました。さらに、布地に印刷する「デジタル捺染(なっせん)機」を今期後半をめどに事業化する予定です。水による洗浄が不要な顔料インクを採用し、染料洗浄時の大量排水という課題解決につながるため、いずれは数百億円規模の事業に育つと期待しています。

── 太陽光パネルも手掛けていますが、中国勢の台頭で苦戦が続きます。どのような展望を持っていますか。

谷本 長く太陽光発電事業を継続していますが、中国勢が低価格攻勢でシェアを拡大し、パネル自体を売っても収益は出にくい状況です。一方で再生可能エネルギーを増やすことは大きな社会課題です。まだ構想段階ですが、戸建て住宅の屋根にパネルを設置し、蓄電池も備えて、毎月の電力料金として回収するという事業モデルを検討中です。自家消費用のエネルギーに生かす方向で、23年中にスキームを固めたいと思います。

── M&A(企業の合併・買収)も積極的に進めていますね。

谷本 技術を組み合わせて伸ばせる案件があれば積極的に進めます。21年1月にはレーザー光源などを手がける米国のスタートアップを買収しました。レーザー技術を車載部品などと組み合わせた新製品の開発に取り組んでいます。

── 中長期的な目標として「売上高3兆円」を掲げています。

谷本 29年ごろまでに達成したいと考えています。この10年、競合他社が目覚ましく伸びた一方、当社の業績の伸びは限定的でした。昔の成長を取り戻したいというのは、社長就任以来の一番の目標です。今期には全体で過去最大の2000億円を集中投資し、既存事業の拡大と新規事業の創出を図っていきます。

(構成=梅田啓祐・編集部)

 

横顔

 

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 30歳の頃にセラミック製造工程を大きく変えるためのプロジェクトリーダーを務めましたが、なかなか製造ラインが立ち上がらず、円形脱毛症になるほど追い詰められました。

Q 好きな食べ物は

A 最近は和食が増えましたね。もともと魚は好きです。こってりした食べ物は減らしています。

Q 最近買った物や買う予定の物は

A レコードを聴くスピーカーとアンプを買う予定です。ジャズを聴くのが楽しみです。

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事業内容:部品事業、機器・システム事業

本社所在地:京都市伏見区

設立:1959年4月

資本金:1157億300万円

従業員数:8万3001人(2022年3月末現在、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:1兆8389億円

 営業利益:1489億円

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 ■人物略歴

谷本秀夫(たにもと・ひでお)

 1960年長崎市出身。長崎県立長崎西高校卒、上智大学理工学部卒業。82年京都セラミック(現・京セラ)入社。2014年ファインセラミック事業本部長、15年執行役員、16年取締役を経て、17年4月から現職。62歳。