横浜国大発の転倒リスク評価
UNTRACKED代表取締役 神谷昭勝 2025.07.07と-島圭介横浜国大教授(左)-撮影 武市公孝.jpg)
労働災害事故の型別で最も多いのが「転倒」だ。労働人口の高齢化で「転倒」防止はますます重要になる。独自技術で転倒事故予防に挑む。(聞き手=和田肇・編集部)
私たちは、転倒事故を未然に防ぐことを目的に、独自の転倒リスク計測装置を開発しました。この装置を使えば、わずか1分で身体機能と感覚機能を計測し、隠れた転倒リスクを評価。リスクに応じて、運動による改善策を提案しています。
具体的には、腕時計のようなデバイスを利き手に装着し、その装置からコードでつながった小さな計測器を利き手の指先の1本に付けます。そして、両足をそろえて床マットのような「重心動揺計」の上に立ち、約1分間、目を閉じてデバイスを装着した利き手を振り続けます。それらの計測データはパソコンに集められ、独自に開発したソフトを通じて、その人の「転倒リスク評価リポート」を作成します(写真・下)。リポートには被験者の「立位年齢」、AからEまで5段階のリスク評価とコメント、8項目の身体バランス評価、理学療法学の知見に基づいた転倒リスク低減のための体操メニューなどが書いてあります。
ライトタッチ現象を応用
人間は何かに軽く触れることで、姿勢を安定させようとする行動をとります。これを「ライトタッチ現象」といいますが、横浜国立大学の島圭介教授はこの現象に注目し、「仮想ライトタッチ」という技術を開発しました。
私たちの計測装置はこの技術をベースにしています。前述で指先に計測器を付けると言いましたが、これは何かに触れたときの反力を振動で表現して、指先に与えることで、ライトタッチ現象を仮想的に再現しているものです。重心動揺計による身体機能の計測と、デバイスによる仮想タッチによるバランス維持の感覚機能の二つを計測し、ソフトに蓄積されたさまざまなデータを合わせて、短時間でその人の転倒リスクをかなり正確に評価することができます。転倒リスクの評価は、従来は身体機能を測定することで得ていましたが、私たちはこれに感覚機能をプラスすることで、転倒リスクを評価しています。
もともと私は工学の制御・計算系が専門で、会社に勤めた後、大学でもう一度勉強したいと思い、横浜国立大学の大学院に入ったのですが、そこで前述の島圭介教授の研究を知りました。それを社会実装することで、社会貢献につなげられるのではないかと思い、この会社を立ち上げました。24年までに全国の企業、自治体、医療・福祉機関などで90件のサービス実施実績があり、収益となっています。今後は計算・管理ソフトのクラウド化や、スマートフォンでも計測できるようにするなどに取り組んでいきます。
====================
企業概要
事業内容:転倒予防事業、感情推定開発事業、生体信号解析・AI開発事業
本社所在地:横浜市
設立:2019年4月
資本金:487万円(2025年1月現在)
従業員数:12人(アルバイト含む)
====================
■人物略歴
かみや・あきかつ
1957年マカオ生まれ。82年横浜国立大学大学院電気研究科修士課程修了、ファナック入社。STマイクロエレクトロニクス、ベンチャー企業創業などを経て、2018年横浜国大大学院博士課程編入。19年UNTRACKED設立。67歳。
====================
週刊エコノミスト2025年7月15日号掲載
神谷昭勝 UNTRACKED代表取締役 横浜国大発の転倒リスク評価