「木に実るダウン」で業界を変える

KAPOK JAPAN代表取締役社長 深井喜翔 2024.11.05

 ダウン(羽毛)のように暖かくて軽い。動物を傷つけず、CO2(二酸化炭素)排出量も減らせる。木の実由来の素材がアパレル業界を変えるかもしれない。(聞き手=位川一郎・編集部)

 カポックという、東南アジアにたくさん自生している植物があります。その実を加工してコートやジャケットなど冬物のアウターの中綿として使い、「KAPOK KNOT」のブランドで販売しています。カポックの繊維はストローみたいに中空で、コットンの8分の1の軽さ。そのうえ、湿気を吸って暖かくなる「吸湿発熱」という機能でダウン並みに暖かいのが大きな特徴です。

 ダウンジャケットには1着で水鳥30羽分ぐらいの羽根が使われます。いま、世界のアパレル市場では動物由来の素材をできるだけ石油由来に変えようとしているのですが、僕らは動物由来を植物由来に変えるのがコンセプト。カポックなら、動物を傷つける必要がなく、木を伐採する必要もありません。

 この秋、京都の着物屋さんと一緒につくった着物用のコートを10着限定で抽選販売しました。これまでも、その道に通じた人と一緒にシーンに合わせた商品をつくる「○○家コラボ」みたいなチャレンジをしてきました。女優で環境活動家でもある二階堂ふみさんとのコラボも実現し、好評でした。

 新しい商品として、先ごろ加重ブランケット「MUSUBI」を販売しました。体重の7~12%ぐらいの加重があると睡眠に良いと言われていますが、コート5着分ぐらいの生地と綿を使って、あえて重いブランケットを作ったんです。網目状で通気性もあります。クラウドファンディングで約1350万円が集まりました。

 原料の調達はインドネシアの農園と契約しています。現在、加工は主に日本国内と中国ですが、将来はオールインドネシアというのも考えています。消費者に喜んでもらった上で、雇用が増え、地球環境にも優しい。それがサステナブルな世界につながっていくと思います。

事業と社会性がかみ合った

 カポックという素材を知ったのは旭化成に勤務していた時です。でも、カポックは繊維が短くて糸にするのが難しい。そこで、糸ではなくシートにし、ダウンの代替として使おうと発想を転換しました。家業に戻り、カポックのコートをクラウドファンディングで販売すると市場で受け入れられた。この素材を広げることに注力したいと思い、僕が100%出資して「KAPOK JAPAN」を創業しました。

 もともと、素材への課題感を持っていました。東南アジア、例えばカンボジアの最低賃金は5年で2倍になったのに、日本では売り値を変えられない。じゃあどうするかとなった時に、「素材の代替だ」と考えました。カポックの値段はダウンの約30分の1。安い素材で機能が劣らなければいけるだろうと。同時に、素材を植物由来に変えることには社会性がある。そこがうまくかみ合いました。

 今年3月、素材の研究開発のために業界の5社と資本業務提携をしました。シートだけでなく、疑似羽毛みたいなものをつくって、羽毛の市場を置き換えたい。ダウンのスタンダードを植物由来に変える、業界のゲームチェンジャーを目指しています。

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企業概要

事業内容:ファッションブランド「KAPOK KNOT」の運営と素材研究開発

本社所在地:大阪府吹田市

設立:2020年1月

資本金:3540万円

従業員数:5人

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 ■人物略歴

ふかい・きしょう

 1991年大阪府生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒。ベンチャー不動産、旭化成を経て、家業であるアパレルメーカー「双葉商事」に入社。2020年に「KAPOK KNOT」のブランドを運営する「KAPOK JAPAN」を設立。23年、経済産業省の「J-Startup Impact」に選定される。

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週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載

深井喜翔 KAPOK JAPAN代表取締役社長 「木に実るダウン」で業界を変える