農業のポテンシャルは無限大
えと菜園代表取締役社長 小島希世子 2023.07.03無農薬の体験農園から仕事のない人の就農支援、オンラインショップまで。「農業で幸せに」を目指して走り続ける。
(聞き手=位川一郎・編集部)
「えと菜(な)園」という農業系の会社をやっています。「つくる」「たべる」「まなぶ」が3本柱。「つくる」では、少量多品種で年間30種類ぐらいを作っています。農薬・化学肥料は使わず、雑草と昆虫を増やしてそれを有機物として土に戻す昔ながらのやり方です。「たべる」は農家直送のオンラインショップです。熊本に拠点があって、環境保全型の農家さん16軒と提携しています。「まなぶ」では、「コトモファーム」という体験農園をやっています。7坪の体験エリアで、無肥料の野菜作りができます。農機具を完備して種や苗も配布します。利用者は年々増えて今は250家族ぐらい。ゼロ歳児から80代の方まで来られます。
もう一つ、「農スクール」というNPO団体をやっています。人手不足の農業界と、働きたいけど仕事がない、例えばホームレスの人、生活保護の人、ひきこもりの人などを結びつければお互いにハッピーだと考えての活動です。農スクールの畑で週1回2時間、約3カ月にわたって農作業をするプログラムと、本気で農業をしたい人が農家さんを回る「農家インターン」というプログラムがあります。これまで約120人が受講して50~60人が就職し、その半分くらいが就農しています。
農業を目指したきっかけは、小学生の時に見たアフリカの飢餓に関するドキュメンタリーです。おなかがすいて死ぬのはありえない、飢餓問題に取り組みたい、と。大卒後に勤めた農業系の会社では、短期的な利益追求ではなく次世代の農業にどうつなぐか、食の安全のために何ができるか、などを教えられました。
「自分もこんなにできる」
仕事のない人と農業界をつなぐ活動は2008年からです。10坪ぐらいの農園を借り、支援団体経由で3人のホームレスの人に来てもらって一緒に農作業をするところから始まりました。元ホームレスで農家になる人が出ると、生活保護の人やひきこもりの子たちも来るようになりました。そのころ、当事者同士をくっつける取り組みは他にありませんでした。
農スクールでは、初めは目を合わせてしゃべれなかった人が、最後はすごくしっかりした感想を言って就職していったりする。毎年必ずそういう人が出るんです。「自分は何もできない」から、野菜作りを通して「こんなにできることがあるんだ」に変わっていく。自然の力と本人の覚悟だと思います。
えと菜園と農スクールは別の団体ですが、どちらも目指すのは「農業で幸せになる」こと。農業がすごいのは、餓死を防げるし、仕事を生み出せるし、癒やしの場になるし、健康も維持できる。可能性は無限大です。今年の夏休みから、コトモファームで「畑は、究極の理科実験室だ!」をスローガンに、大学の先生などに来てもらう予定です。子どもたちに学ぶって楽しいと感じてもらえればと、とても楽しみです。
雑草と昆虫を生かした農法は世界中どこでもできると思っています。将来は、これを広めるためにアフリカに行きたいですね。
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企業概要
事業内容:農薬を使わない栽培による農産物生産・販売、農作業を活用した企業研修、農福連携(農業と福祉の連携)導入サポート、貸し農園・体験農園の運営、野菜作りセミナーの開催、直売所運営
本社所在地:神奈川県藤沢市
設立:2009年5月
資本金:100万円
従業員数:4人
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■人物略歴
おじま・きよこ
1978年熊本県生まれ。農村に育ち、幼少期から農業への憧れを持つ。慶応大学卒業後に産地直送の会社に勤務。オンラインショップを立ち上げて独立し、2009年に株式会社えと菜園として法人化。13年にNPO法人農スクールを設立。著書に『ホームレス農園』(河出書房新社)。
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週刊エコノミスト2023年7月11日合併号掲載
小島希世子 えと菜園代表取締役社長 農業のポテンシャルは無限大