「本物」の自然を都市生活に

WONDERWOOD代表取締役CEO  坂口祐貴  2023.09.25

 低コストの大量生産品に囲まれた生活の中に「本物」を──。樹齢数百年の銘木から作った一枚板の魅力を伝える。

(聞き手=位川一郎・編集部)

「BACK TO NATURE」が会社のキーワードです。いま世の中で不自然な現象があまりにも多い。人間が自然から離れすぎてしまったところに問題があるように思えます。とは言え、都市生活をやめるわけにはいかない。せめて一枚板で大自然とのタッチポイントを少しでも増やしたいという思いで、事業をやっています。

 もとは外資系消費財メーカーのサラリーマンでした。オーバーワークでメンタルをやられて地元の鳥取に戻り、たまたま入ったカフェで出会った一枚板に大きな穴が開いていたんです。木は樹齢二、三百年とか生きてるスケールが全然違う。穴に触れた時に「お前の苦労なんかまだまだだ」と大先輩に叱られたような気分になって、「まだ自分はできる」「これだ」と感じて、起業しました。

一枚板の魅力とは

木の穴もそのまま残すという

 一枚板のテーブルを作っていますが、創業当初から国産の木だけを使ってきました。一枚板の魅力は、木が苦労してきた表情。例えば、屋久杉は1000年以上厳しい環境で育ってきたからこそ、独特の魅力があります。木の穴も苦労してきた証しなので、切ったりせずありのままの形を残すのがポリシーです。

 仕上げ塗装もウレタン加工はせず、天然オイルを使って木の手触りや香りを残します。反ったり割れたりするリスクはありますが、お客様に最初に説明して理解してもらっています。

 以前はホテルやレストランにカウンターなどを納入する案件が主力でした。それがコロナでゼロになって、めちゃくちゃ厳しかったですね。ただ、そこで一気に顧客を個人に替えて、復活できました。イチョウのまな板も扱っていますが、「おうち需要」で料理を始める人が増えて、よく売れました。

 日本で贈り物としてのまな板は注目されていませんでしたが、まな板は、自分で買うには高いけど使用頻度が高い、趣味嗜好(しこう)を選ばない、という贈り物の条件を満たしている。箱から作り込んでみると、プレゼントとしてすごく選んでもらえるようになりました。

 低コストの時代で、木に似せたプリントのような「代替物」があふれています。「本物」に囲まれた生活はなかなかできません。でも、テーブルでもまな板でも観葉植物でも、何か一つ家に「本物」が入ると大量生産品に「あれ?」と違和感が出てきて、ライフスタイルが変わると思います。一枚板のテーブルは樹齢の分だけ使えると言われるほど耐久性もすごい。子供さんやお孫さんも使っていけるような時間軸です。

 6人掛けで70万~100万円ぐらいですが、30~40代のお客様もたくさんいます。物を買わなくなった若い人たちも、本当にいい物にはお金を使うのかもしれません。

 木の価値を伝えるのが僕のテーマです。林業の根本的な問題は木材の単価が下がりすぎていることです。「木っていいよね」という世界になって価格が上がっていけば、林業の問題解決にもつながると思います。

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企業概要

事業内容:一枚板のテーブル、まな板の製作販売

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2016年3月

資本金:450万円

従業員数:5人

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 ■人物略歴

さかぐち・ゆうき

 1988年鳥取市生まれ。創価大学経済学部卒。P&Gジャパンを経て、2016年に「WONDERWOOD」を設立。22年9月、本社とショールームを世田谷区から代官山(渋谷区恵比寿西)に移転。

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週刊エコノミスト2023年10月3日号掲載

坂口祐貴 WONDERWOOD代表取締役CEO 「本物」の自然を都市生活に