子宮内の細菌検査で不妊に挑む

バリノス代表取締役CEO 桜庭喜行 2022.05.16

桜庭喜行 バリノス代表取締役CEO 子宮内の細菌検査で不妊に挑む

 子宮内の細菌に着目し、世界で初めて「子宮内フローラ検査」を独自開発・臨床検査として実用化したバリノス。がんや遺伝病などでの貢献も期待できる。

(聞き手=加藤結花・編集部)

 ゲノム関連の技術を使った遺伝子検査サービスを提供しています。主力事業は不妊治療に貢献ができる遺伝子検査で、元理化学研究所の研究室で勤務していたスタッフなどの人材を擁し、検査自体の開発もできる日本でも数少ない企業です。

DNA検体を装置に入れ、遺伝子解析により子宮内フローラを解析する

 2017年12月には、世界で初めて子宮内フローラ(子宮内の細菌)検査の実用化に成功しました。子宮の中は長らく無菌であるといわれていましたが、近年の研究で子宮内にも菌がいることが15年に明らかになりました。そして、米スタンフォード大の研究で子宮内フローラの環境が乱れていることで妊娠の成績が下がることが発見されたのです。これを産業応用できれば、不妊に悩む人の助けになることができるのでは、との思いから16年末の論文データを基に会社を立ち上げました。

 体外受精では、完璧な胚(はい)(受精卵)を子宮内に戻しても、成功率は60~70%程度です。検査をすることで妊娠率を左右する子宮内フローラの環境を把握し、環境の良い状態のときに胚を戻すことで妊娠率の向上につなげようというのが狙いです。妊娠率の向上に相関があるとされるのが、ラクトバチルスと呼ばれる乳酸菌で、検査ではラクトバチルスがどの程度、子宮内に存在するかを調べることができます。

 検査は臨床検査として医師を通じて提供され、私たちは受け取った検体を解析し、医師に報告します。サービスの提供当初は、体外受精を何度か行った経験のある患者が利用されることが主でしたが、現在は患者の年齢なども考慮して、最短で妊娠に至ることを目指す目的で初期の段階の検査としての利用も増えています。

日本の現状に危機感

 また、20年4月から提供を始めたPGT-A検査(着床前ゲノム検査)も主力事業として育っています。これは、体外受精によって得られた胚の染色体の数の異常を、遺伝子解析によって調べる検査です。通常、体外受精では複数の胚の中から見た目のよい胚を目視で選んで子宮内に戻します。これを染色体の数に基づいて移植することで、30%程度とされる妊娠成功率を70%程度に引き上げるとともに、染色体異常が原因であることが多い流産のリスクを減少させることが期待できます。

 元々、研究者をずっと続けるつもりでいましたが、自分の研究が世の中に貢献できていないもどかしさ、研究レベルでは世界と比べても遜色のないゲノム研究の知見がありながら、産業応用されていない日本の現状に強い危機感を覚えて創業を決意しました。

 次世代シーケンサー(遺伝子の塩基配列を大量・高速に解読できる装置)による解析には1回20万〜30万円ほどかかるため、当初は早々に倒産するのではと不安になりました。今は検査事業が軌道に乗り、菅義偉前首相が打ち出した不妊治療への保険適用で治療を始める患者の数も増え追い風が吹いています。

 現在は不妊治療の分野が事業の中心ですが、将来的にはがんや遺伝病など、幅広い分野での検査に応用可能だと考えています。できることはたくさんありますが、患者、現場のニーズという視点を大切にして貢献していきたいです。

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企業概要

事業内容:臨床検査の受託解析およびゲノム検査の開発など

本社所在地:東京都江東区

設立:2017年2月

資本金:1億円(資本準備金等含む)

従業員数:47人(アルバイト含む)

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 ■人物略歴

桜庭喜行(さくらば・よしゆき)

 1972年東京都生まれ。2001年埼玉大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)取得。理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでゲノム関連国家プロジェクトなどを担当。08年米国セントジュード小児病院、理化学研究用機器の販売などを手がけるイルミナでの産婦人科分野の遺伝学的検査の市場開発などを経て、17年2月にバリノス設立。