銀座に集中投資し「次の100年」創出
松屋 古屋毅彦 2025.12.22
Interviewer 清水憲司(本誌編集長)
銀座に集中投資し「次の100年」創出
── 銀座店が2025年5月に100周年を迎えました。
古屋 呉服店として出発した当社は1925(大正14)年5月1日に銀座店を開店しました。銀座店の白い建物は、たくさんの観光客が集まる銀座のランドマーク的な存在になっています。100周年の記念セレモニーでは社員、取引先、お客様、地元・銀座の街の皆様に感謝の気持ちを伝えました。銀座とのつながりを一層深め、地元を盛り上げていきます。
── 次の100年の戦略は?
古屋 25年4月にまとめた経営計画では、30年度の営業利益を「80億~85億円」に引き上げる目標を掲げています(24年度は44億円)。同時に、ホームタウンである銀座へ集中投資することも明記しました。品ぞろえやサービス、顧客からの信頼性などあらゆる方面で、銀座店を「銀座のナンバーワン」にする決意です。銀座に本店がある百貨店は当社だけです。こうした地の利を生かして銀座集中投資を進め、「銀座に行くこと」と「松屋に行くこと」がいつも同時に語られるような存在を目指したいと考えています。
── 浅草店については?
古屋 浅草店はターミナル駅の東武スカイツリーライン浅草駅に直結しています。浅草寺を中心としたエリアには年4000万人もの観光客が訪れており、浅草店はもっと活性化できる余地があると思っています。「観光のハブ」として、地域のマーケットに刺さる取り組みを展開していきます。
── 25年中間期(3~8月期)の全体の売上高はコロナ前の水準を上回ったものの、免税売上高の減少を受けて前年同期比16・2%減の529億円となりました。今後のインバウンド需要の見通しは?
古屋 24年度については中国などによる新型コロナ禍後のリベンジ消費に加え、値上げを控えたラグジュアリーブランドの駆け込み需要も重なり、今から振り返れば「異常値」だったと総括しています。インバウンドについては、こうしたボラティリティー(変動の大きさ)をどう安定化させるかが業界の課題になっています。(観光客が特定の国に偏在する)一極集中のリスクを抑えるため、訪日外国人の裾野をできるだけ広げたいと考えています。
── 国内では人口減少が進みます。今後の百貨店経営のあり方をどう考えていますか。
古屋 百貨店は「時代を映す鏡」であり、日本が豊かになるにつれて成長を遂げた半面、バブル崩壊と「失われた30年」では売り上げが減っていきました。品ぞろえやサービスなどを含め、私たちも環境に合わせて変わらなければならないと認識しています。
日本文化の発信拠点に
── 文化事業の取り組みは?
古屋 百貨店は「買い物の場」だけでなく、アートやデザインなど文化の発信地としての役割もあります。例えば、日本各地の伝統工芸をリブランディング(ブランド再構築)し、地域の活性化を目指す「地域共創」の取り組みを進めています。従来の伝統工芸をデザインの力でアップデートし、銀座店のショーウインドーで披露して日本の文化を世界に伝えています。世界から人が集まる銀座の百貨店だからこそできる取り組みです。海外ブランドを外国人に売るだけではなく、日本のものを海外に伝え、その地域の良さを発信する拠点にしたいと考えています。
当社は規模ではメガ百貨店の10分の1程度ですが、メガ百貨店にはできないことを逆にやっていく必要があると考えています。機動力とともに「ローカルに強い」という側面が私たちの強みです。
── 24年にはオンラインサイト「マツヤギンザドットコム」をスタートさせました。
古屋 購入とともに免税手続きが可能で、訪日外国人にとっては店舗での手間を省くことができます。リアル店舗とデジタルを融合したオムニチャンネルプラットフォームを目指していますが、(ネット通販のような)eコマース(電子商取引)と思われている部分もあり、苦戦している部分があります。とはいえ、スマートフォンの中に(松屋の存在が)ないということは市場に生き残れないことと同じです。この取り組みを結果に結びつけたいと考えています。
── 銀座店の初売りは24年以降、1月2日から3日へ後ろ倒しし、26年で3年目です(浅草店は1月2日)。売り上げや従業員の働き方への影響は?
古屋 営業日数、営業時間を減らした一方で、売り上げは伸びています。大事なのは生産性だと考えています。働き方については、従業員にもお正月の気分を味わってほしいと思っています。松屋の経営方針の最初は「顧客第一主義」で、その次は「共存共栄」です。人手不足が続く中、取引先も含めて従業員の働き方を改善し、働くモチベーションを引き上げることも重要と考えています。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 米国の大学院を経て30代後半に松屋に戻りました。(創業家の)古屋家出身だったこともあり、自分にしかない価値を出さなければ、と意気込んでいました。
Q 「好きな本」は
A 『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)です。危機的な状況でも、よく見ればいくらでも状況を変えることができます。現場の人に読んでほしいと思います。
Q 休日の過ごし方
A 朝から晩まで娘と遊んでます。
====================
事業内容:百貨店業、通信販売業など
本社所在地:東京都中央区
設立:1919年3月
資本金:71億3200万円
従業員数:559人(2025年12月時点)
業績(25年2月期、連結)
売上高:481億2000万円
営業利益:44億8500万円
====================
■人物略歴
ふるや・たけひこ
1973年生まれ。学習院中・高等科を経て96年学習院大学卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2001年松屋入社。08年米コロンビア大学国際関係・公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。23年3月から現職。52歳。
====================
週刊エコノミスト2025年12月30日・2026年1月6日合併号掲載
編集長インタビュー 古屋毅彦 松屋社長
