PRで企業のブランド向上支援

Enjin 原口博光 2024.12.16

PRで企業のブランド向上支援

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── 企業のブランド力を上げるPRの支援が主な仕事ということですが、どんな事業ですか。

原口 主に三つのサービスがあり、一番売上高が多いのは創業時から手がける「ダイレクトブランディング」と呼んでいるサービスです。テレビや新聞、雑誌、ウェブサイトなどへの露出を支援します。媒体社と相談し「出演枠」(雑誌なら広告ページ)を企画して、PRを支援する取引先企業にその枠への出演を促す。媒体社と作り上げた企画を、「メディアで自分の考えを訴えたい」という取引先企業とマッチングします。

── 最近買収した企業が担うサービスもあるそうですね。

原口 はい。世界49カ国を結ぶPRネットワーク「ワールドコム」の日本代表社であり、2023年3月に子会社になった「アズ・ワールドコムジャパン」によるもので、顧客のさまざまな悩みに応えるコンサルティングのサービスです。「ストラテジックPR」と呼んでいて、対外的なPRやメディア対策などの支援を請け負います。

 企業だけでなく自治体も顧客です。最近では長野県軽井沢町から相談を受け、観光地としての海外でのPRをお手伝いすることになっています。

── 三つのサービスのうち、もう一つは何ですか。

原口 取材ネタを探すメディアと取材されたいクライアントをつなぐもので「メディアプラットフォームサービス」と呼んでいます。

── 3事業の売上高の割合は。

原口 ダイレクトブランディングが8割で、あとの二つが1割ずつというのが現状ですね。

── 創業の経緯は。

原口 (現CEO〈最高経営責任者〉の)本田幸大がもともと広告代理店で仕事をしていたのですが、広告枠を仕入れて右から左に流すだけではない、そこに付加価値が生まれるPRをしたいということで06年に独立し、07年に会社を設立しました。

── 原口さんは最近、社外取締役として参加したそうですね。

原口 23年8月に社外取締役に就任し、いわば「ご意見番」だったのです。そこでいろいろ意見を言っているうちに「こういう見方をした方がいい」などと、だんだんコンサルみたいな感じで経営に参画していたら、原口にCOO(最高執行責任者)を任せたらどうかというような話になりました。

── COOとしての経営方針は。

原口 まず会社のパーパス(存在意義)とミッション(使命)をしっかり定義することによって、何のための会社なのか、ということを確認しました。従来はミッションとして「社会の役に立つ立派な人間を一人でも多く輩出する」を掲げていたのです。

 ただ、これは会社のミッションかもしれないけれど、ここで働いている人のミッションではないということで、この「~輩出する」をパーパスとし、持つべきミッションは「あらゆる価値を『可視化』する」と定めました。クライアントが言いたいことを見えるようにする、ということを浸透させたいです。

── 最近の業績をどう見ていますか。

原口 21年に東証マザーズに上場し(現在は東証グロース市場)、22年は業績を伸ばしました。ところが、23年の中盤あたりから中期経営計画が未達の状況になってきました。計画を下回り始めた原因は二つ。これまでの右肩上がりを引っ張ってきた社員が燃え尽きて退職したことと、採用がうまく進まなくなったことです。

 ただ、売上高が落ちて利益が下がっているものの、利益率は変わらず稼ぐ力は下がっていないので、ここが立て直せるチャンスだと考えました。25年5月期決算についてはいったん中計を取り下げ、(短期の)事業計画を立て直して取り組む一年と決めました。

社員と対話し離職止める

── 原因に対する対応は。

原口 まず離職が止まりました。何が効いたかというと、ひたすら社員と話すこと。個別、朝礼、小グループなど。会社がどういう方向に向かっているか、丁寧に伝えて理解してもらう。それと働き方改革。残業や休日出勤で疲れていては良い仕事はできませんから、効率的になるよう促しました。

── 採用の方も回復し始めたそうですね。人事部門の人を増やしたのですか。

原口 端的に言うとそうですね。営業部門の良い人材を移したことで「人を大事にする会社」という雰囲気が高まった。平成生まれの社員に「とにかく頑張れ」という昭和の価値観を持ち込んでもかみ合いません 。

── 今後業績を伸ばすために考えていることはありますか。

原口 25年5月期いっぱいかけて新しい中期経営計画を策定する準備を進めています。PRの領域であらゆる価値を可視化するような新しいサービスを他に作ることができないかと考えています。

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A かつて上場企業(タイルメーカーのダントーホールディングス)の社長に就任したころ、東日本大震災が発生。震災からの立て直しに奔走したこと。

Q 「好きな本」は

A 黒木亮さんの『トップ・レフト』。大学生の時、世界で働くとはこういうことかと気付いた。以来、黒木さんの作品はすべて読んでいる。

Q 休日の過ごし方

A 冬は一緒にスキーをしたり、息子との時間を大事にしている。

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事業内容:企業や自治体のPR活動の支援

本社所在地:東京都中央区

設立:2007年3月

資本金:9億円

従業員数:168人(2024年5月末、連結)

業績(24年5月期、連結)

 売上高:32億円

 営業利益:10億円

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 ■人物略歴

はらぐち・ひろみつ

 1978年生まれ、埼玉県出身。私立 攻玉社高校卒。東京大学法学部卒。2003年4月経済産業省入省。11年ダントーホールディングス社長。デロイトトーマツアンカーマネジメント・ディレクター、三井農林執行役員を経て23年8月Enjin取締役、24年8月よりEnjin COO(最高執行責任者)。46歳。

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週刊エコノミスト2024年12月24日号掲載

編集長インタビュー 原口博光 Enjin COO