通販大手、多角化でホテルが好調
ベルーナ 安野清 2025.09.16
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
通販大手、多角化でホテルが好調
── カタログ通販事業のほか不動産・ホテル事業も手掛けています。創業の経緯を教えてください。
安野 印鑑の訪問販売で創業しました。ただ、販売の機会は販売先の職場の昼休みに限られ、それ以外の時間を持て余していました。そこで、他のことをやろうと頒布会(会員向けに毎回異なる商品を定期的に販売)の商品の訪問販売を仲間と始めました。仲間2人は途中で辞めてしまい、私が600~700件のお客を引き継いで個別訪問して販売していました。それが当社のスタートです。1968年に「友華堂」を創業して、77(昭和52)年に株式会社として設立しました。
── 扱っていた商品は。
安野 主に陶器製の食器です。当初は東京の業者から仕入れていたけれど利益が薄い。そこで、産地である岐阜県の生産業者からの仕入れルートを開拓しました。訪問販売で陶器などを売っていましたが、頒布会はチラシを入れて注文を取ることが主流だったので、そうした手法を取り入れました。現在の本業であるアパレルの通販事業は83年に始めました。
── 2025年3月期の売上高は前年比1・2%増、営業利益は21%増でした。好調だった事業や直面している課題は何でしょうか。
安野 アパレルのカタログ通販事業は厳しくなっています。コロナ禍のころは、菅義偉官房長官(当時)が「通販で買い物を」と呼びかけていて追い風が吹いて絶好調でした。コロナが終息すると、用紙代が値上がりしました。電気料金の値上げで印刷代、送料も上がりました。さらには、円安によって衣料品の仕入れ価格が上がりました。価格転嫁して値上げすれば利用客の反応が悪くなります。コロナ終息から一気に逆風になりました。
そこで当社は特定の商品分野に特化した専門通販(化粧品や健康食品、グルメ、ワインなど)や、当社が蓄積したデータベースを活用した事業、商業用不動産とかホテルなどのプロパティー事業のほうに主力をシフトしたのがこの3年くらいです。増益決算はその成果が出てきたといえます。
── 専門通販ではどのような商品を扱っていますか。
安野 サプリメント、化粧品、グルメ、ワイン、ナース(看護師用衣料品など)の5分野あります。従来手掛けていたので、広告宣伝費がさほどかからないです。比較的リピーターが多いので、こちらは有望であると注力しています。看護師用の衣料品やグッズの通販では「アンファミエ」「ナースリー」の2ブランドで、6割の市場シェアを当社が確保しています。もともと買収した事業です。年商2億~3億円の企業を当社が40億円に引き上げました。
── ワイン販売はどうですか。
安野 約100億円の売り上げは通販でトップです。日本酒も約50億円売り上げ通販でトップ。実店舗で手掛ける着物の販売額が約250億円でこれも日本一です。
── 一方でアパレルは厳しいと。
安野 アパレル関連のマーケットは、かつては15兆円(91年)だったのがいまは9兆円を切りました。収益を上げにくい市場になっています。さらには、カタログで買う人が減ってネットへ移行しています。カタログで衣料品を買う方々の高齢化もあります。当社の持ち味はカタログを送ってネットでも買ってもらう販売チャンネルを持っていることです。ネット専門の部隊も5部門あります。カタログの良さとネットの便利さを融合して厳しい時期をしのごうと考えています。ソリューション事業は、カタログに他社の広告宣伝を同封することで料金をいただく事業で、こうした収益源もあります。
インバウンドでホテル好調
── ホテル事業を国内外で手掛けています。
安野 東京・渋谷に土地を買収してホテルが面白いと考えたのがスタートです(06年)。赤坂、新宿などに都市型ホテルを作った後に、花巻温泉(岩手県)で当時売り上げが4億円弱の旅館を「経営してみないか」といわれて「面白そうだ」と考え、私が経営して売り上げを8億円に引き上げて自信を持ちました(編集注:渋谷、花巻の施設は別資本で運営)。都市型とリゾート型、それぞれ試行錯誤しながらうまく経営できるようになりました。
── インバウンドの効果は。
安野 都市型は東京、北海道、京都が好調です。リゾート系は、北海道・洞爺湖(洞爺サンパレス リゾート&スパなど3カ所)でインバウンド客が30~35%くらい。多い時は5割になります。同じ北海道でも札幌から近い「定山渓ビューホテル」だとインバウンドは15%程度。インバウンドで人気がある地区とそうでない地区の格差はあります。でもインバウンド客は増えています。韓国や中国、香港、台湾。しばらくは増えるでしょう。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまで最もピンチだった場面は
A 創業から成長期にかけて当社の規模が大きくなるにつれて広告宣伝費が膨らみ、資金繰りには苦労しました。
Q 「好きな本」は
A 鉄鋼王アンドリュー・カーネギーなど米国の成功者を取り上げた本が好きです。
Q 休日の過ごし方
A ほとんどゴルフです。3~4年前は年間100回くらい。いまは60~70回くらいかな。仕事ではなくプライベートで。
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事業内容:アパレル・雑貨、食品などの通信販売、不動産・ホテル事業など
本社所在地:埼玉県上尾市
創業:1968年9月
資本金:106億1200万円
従業員数:3884人(2025年3月、連結)
業績(25年3月期、連結)
売上高:2108億円
営業利益:118億円
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■人物略歴
やすの・きよし
1944年生まれ。埼玉総合職業訓練所を経てホンダ入社後、68年9月に印鑑販売で起業。77年友華堂(現ベルーナ)を設立、社長に就任。埼玉県出身。80歳。
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週刊エコノミスト2025年9月23日・30日合併号掲載
編集長インタビュー 安野清 ベルーナ社長