難病専門医の知見を一カ所に集結

Medii代表取締役医師 山田裕揮 2023.09.04

 良薬があるのに処方できる専門医がいない──その状況を解決したくて仕組みを作った。

(聞き手=北條一浩・編集部)

医師と製薬企業を結び、対価で再投資する好循環 Medii提供

 医師や医学生向けに「E-コンサル」というオンラインでの難病専門医相談サービスを提供しています。医師と製薬企業を結びつけ、難病に苦しむ患者さんを救い、同時に専門医の活躍、良薬の有効活用をうながす仕組みです。

 いま、難病の99%をカバーする専門医が1000人以上、E-コンサルに集結しています。医師は診断のつかない難しい病状の患者と対した時、自分ではどうにもできないことがあります。たまたま運良く知り合いにその分野の専門医がいてメールで相談できる場合などもあるでしょうが、それも限界があり、結果、難病に苦しむ人はあちこちの病院をたらい回しにされ、長く苦しみ続けることになってしまいます。

 例えば間質性肺疾患という病気があります。本来は病原体などから体を守るはずの免疫の働きに異常が生じ、逆に自分の体を攻撃して肺がボロボロになる恐ろしい病気です。毎年この病気で数万人が亡くなっていますが、最近、新薬ができて劇的に長生きできるようになりました。ところがこの新薬、使い方が難しいんです。

 せっかく良い薬があるのに、専門医でないと適切に処方することができない。ところがE-コンサルを知っていて相談してくれれば、その薬の使い方や、他の免疫抑制剤との使い分けの仕方など、間質性肺疾患の専門医が懇切丁寧に最適の処方を無料で教えてくれます。

 こうして医師を助け、患者さんを助けるのともう一つ大事なのが製薬企業。最近は技術革新によって、難病に効果のある新薬がどんどん開発されています。その多くはアメリカのベンチャー企業が作る薬ですが、日本は新薬の承認がなかなか下りない国なのでそれらの企業も日本市場に参入しようとしません。そこでわれわれの出番。E-コンサルで新薬を最も必要としている人のもとに専門医の最善の処方で届けることができれば、もともと高額な薬ですから大きな市場を形成できることになります。

 以上の説明から理解いただけると思いますが、主な対価は製薬企業から受けています。

すべての人により良い医療を

 医療を志したのは、私自身が10歳くらいから原因不明の症状で4回入退院を繰り返した経験が根底にあります。私の症状が膠原病(こうげんびょう)だとようやくわかったのは医学部5年生になって特別の検査をしてもらった時でした。

 医師になり、今もMediiの仕事の傍ら、週1回は免疫難病専門医として患者さんと相対していますが、「1人でやれることには限界がある」とずっと感じてきました。医療という分野においては、高度な専門分化が進めば進むほど、専門医に出会える機会は少なくなります。そんな状況を解消したい、そして将来性あるビジネスとしても育てていきたい、そんな思いでこの会社を立ち上げました。

 今後は日本の専門医の知見を提供すること(エクスポート)と、まだまだ未承認が多い海外の薬剤を日本市場に入れること(インポート)の2軸モデルで海外展開を図り、さらに多くの人に利用してもらいたいと考えています。

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企業概要

事業内容:課題の大きな希少疾患や指定難病を中心に、専門医の知見をオンラインで拡大・共有

本社所在地:東京都新宿区

設立:2020年2月

資本金:4500万円

従業員数:53人

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 ■人物略歴

やまだ・ひろき

 1989年和歌山市生まれ。和歌山県立医科大学卒業後、自身も苦しんだ膠原病領域の専門性を身に付けるため聖路加国際病院、慶応義塾大学病院で勤務。その後専門医の知見を世界中で共有できる仕組みの必要性を痛感、2020年にMediiを創業。

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週刊エコノミスト2023年9月12日号掲載

山田裕揮 Medii代表取締役医師 難病専門医の知見を一カ所に集結